ニュースレター

2020-04-22
見逃されがちな課題
「36%」

この数字はAmerican Psychiatric Association = アメリカ精神医学会が実施した調査で、

「新型コロナウィルスがメンタルヘルスに深刻な影響を及ぼしている」

と回答した方の数字です。3分の1以上の方がこのように回答しているだけでも驚きですが、この数字のインパクトはそれ以上にあります。実は、この調査が行われたのは約1ヵ月前の3月19日のこと。その後、米国のほとんどの地域での感染状況は悪化の一途を辿っており、現時点で調査した場合に、この数字が上昇することは想像に難くありません。そして、ご自身では感じていなくても心の健康状態が不安定になっている場合もあるのです。

VUCA Worldという言葉をご存知でしょうか?激動の現代社会を表す言葉で、元々は米国の軍事用語でしたが、2010年代頃からビジネスでも使用され始め、正に現在の状況にも当てはまります。VUCAは4つの英単語の頭文字を合わせた頭字語で、それぞれの単語と意味は

Volatility(変動性)
Uncertainty(不確実性)
Complexity(複雑性)
Ambiguity(曖昧性)

を指します。企業を取り巻く市場環境が安定せず、不確実。物事が複雑化し、混とんとした状況のことを指して使用される言葉です。詳細の説明については別の機会にさせて頂きたいと思いますが、VUCA Worldでのリーダーシップスタイルとして適切なのは、従業員を含めた多様な人材を巻き込み、物事に柔軟に対応できるリーダーです。従業員との良好な信頼関係を築く能力がこれまで以上に求められているということです。

貴社の従業員の中にも気持ちが沈んでいるなと感じる方はいらっしゃいませんか?

ただでさえ、ストレスや不安を感じやすいこの時期に、自宅勤務の従業員が増えている現状では尚更です。日本に比べると、自宅勤務が一般的なアメリカではありますが、今回が初の自宅勤務という方もいらっしゃると思います。当然、今後の経済の行方は気になるところだと思いますが、従業員のメンタルヘルスについてのケアも雇用主にとって非常に重要な責務となります。うがい・手洗いの推奨、ソーシャルディスタンスの維持などコロナウィルスの脅威から身体を守る方法については、様々なメディアでも取り上げられていますが、それに比べるとメンタルケアについての情報は少ないというのが現状です。

従業員のプライバシーもありますので、個々の状況に対しての過度な詮索は禁物ですが、たったの一言やささいな行動が従業員の気持ちを救う状況も多くあります。そして、逆もまた然りです。たかがストレスとお考えの方もいらっしゃるかもしれませんが、ストレスが人間に与える影響はCDC (Centers for Disease Control and Prevention = アメリカ疾病予防管理センター)でも取り上げられており、人体にストレスがかると下記のような変化が散見されるようになります。

●本人や大切な方の健康状態への過度な不安や恐れ
●食生活や睡眠習慣の変化
●注意力が散漫になる
●アルコール、喫煙量、薬物の使用量の増加

世界最大のHRのコミュニティであるSHRM(Society of Human Resources = 人材マネージメント協会)でも従業員の精神面のケアとしてできることについて度々紹介されている程重要なことですので、概要をご紹介させて頂きます。既にご対応されている雇用主の方からすれば当たり前と思われる内容も含まれますが、復習も兼ねてご紹介をさせて頂きます。

<従業員への配慮を第一に>

この時期は会社の行方や今後の戦略についてなど、どのように経営を継続していくかというコミュニケーションが増えると思います。会社の経営が続かなければ、従業員の働き口もなくなってしまいますが、健康な従業員無しには経営も成り立ちません。メッセージを発する際には、従業員を気遣うメッセージにし(気持ちだけでは伝わらないということです)言葉や行動などに、一貫性を持たせることも大事です。もし、雇用主と管理職者で、例えば、シックリーブの使用に対する考え方に相違があり、従業員の健康に害を及ぼすような業務環境での勤務を指示するようであれば、従業員を感染の危険に晒すことはもちろん、従業員のやる気を削いだり職場の人間関係を著しく悪化させます。

<透明性のあるコミュニケーションを>

今回のような緊急事態には従業員のストレスレベルが上昇します。対策について決定を下した後はできる限り早く、決定事項を従業員と共有して下さい。「会社の状況を分かっているだろう」という気持ちではなく、通常勤務時以上の丁寧な説明が必要です。また、従業員からの質問に対応できる管理職をアサインして下さい。

<柔軟な対応を>

従業員自身のケアはもちろんのこと、お子様やご両親など守るべき家族がいる方もいます。お子様の休校で日常生活での負担が増えている状況もあります。このような状況に対して会社としてできる限りのサポートを行ってください。関連の法令があれば当然ではありますが、Essential Businessであったとしても、在宅勤務、勤務時間の調整、柔軟な休暇の提案など自発的に行っていくことも大事です。

従業員のメンタルヘルス面でのサポートを行う為に、下記ベネフィットを提供し始めた企業もあります。

[Starbucks]
4月6日から1週間に20時間以上勤務する従業員を対象にベネフィットを拡充。従業員とその家族は年間20回までのメンタルセラピストなどのサポートを無料で受けることができる。

[Target]
睡眠やメンタルヘルスの向上に役立つアプリやオンラインツール、またアプリを使ったバーチャルフィットネスにいずれも無料で参加することもできる。

[PwC]
既に従業員とその家族に対して、6回のセラピーと睡眠・瞑想・リラックスに役立つアプリを無料で提供していた。更なるサポートを決定し、従業員がストレスを感じた際にいつでも頼れるコーチングセッションの機会を設けたり、コロナウィルス感染拡大でお互いが直面している課題について話すことのできるオンラインコミュニティーを導入。

従業員数からして、いずれも相当の予算が必要な内容ですが、対応のスピードも内容も流石だなと思わざるを得ません。予算が必要になる取り組みを上述させて頂きましたが、同等の予算が無い企業でも様々な取り組みを行っています。チャットサービスがあれば、チームメンバーで役立つ情報を共有する。会議システムがあれば従業員同士でランチ時間を一緒に過ごす。電話があれば、困っていることが無いかを確認するなどシンプルなことでも良いのです。

「困った時に頼れるメンバーがいる」
「気に掛けてもらっている」

という従業員の気持ちが大事だからです。そこから会話が生まれ、従業員の悩みや問題が解決されることが、雇用主にとっても従業員にとっても最も望むべきことです。こんな状況だからこそ生まれる従業員同士の絆も大切にしていきたいものです。

ここまでは従業員のケアについて、述べさせていただきましたが、従業員と共に雇用主・管理職者の方にも実践していきたい内容もございます。

<氾濫する情報のコントロール>

大量な情報が入る現代では、情報量のコントロールが非常に重要になっています。連日の新型コロナウィルス関連の報道について、ある程度の情報を入れておくことはもちろん大事ですが、心で処理できない量や内容は考え物です。特に悲しいニュースや感情を揺さぶるニュースは個人個人で許容量は違うものの、少しずつ心理状態に影響を及ぼすとされています。SNSの使用を避ける、メディアの使用頻度を制限する、ネガティブな論調のニュースや情報を一時的に遠ざけるなどが考えられます。

<健康増進の為に>

ヨガや瞑想など精神の状態を整えることが出来る運動を行ったり、単純に休息を取るということも有効です。個人個人で心を休めることのできる活動は異なると思いますが、普段以上に精神を落ち着かせる行動を意識するようにして下さい。

<様々な想定をしてみる>

今後どのように感染状況が変化するかは予測が難しいところです。ですが、万が一の状況が起きてしまうのではないかと常に心配するのではなく、起きてしまった場合にどのように対処すればよいのかを想定してみる(お子さまのケアはどなたにお願いするのか、またどのように勤務していくのかなど)ことで、気持ちが楽になることもあります。

<困った時は助けを求める>

雇用主の立場であるから、または上司の立場であるからといって周りに助けを求めていけないということではありません。むしろ、ストレスレベルが高くなっている状態であれば信頼のおけるご友人やご家族に相談されることは大事です。あるいは、その分野の専門家にご相談されることも推奨されております。

雇用主・管理職の方々は、この未曽有の危機に対して、強い責任感を持って周りの方を守ろうとされていると状況だと思います。

「自分が弱みを見せてはダメだ。。」
「部下・同僚に対して普段以上のケアをしてあげなければ」

と、従業員側に立って、様々な行動をされることは大変尊いことです。ですが、従業員のケアをされる皆様のご健康もまた、ご家族の為に、企業の為に、大変重要なものですので、これまで以上に心の健康について意識して頂きたいと思います。

州によって感染拡大のピークを迎えているという報道も一部なされておりますが、まだまだ予断を許さない状況です。時節柄、くれぐれもご自愛下さい。

Akihiro Yamada, MBA, SHRM-SCP
Regional Sales Manager
Actus Consulting Group, Inc.