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2021-04-27
理想と現実のバランス
理想と現実のバランス

$72,173
$71,088
$63,316
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これらの数字が何を示すかご存知でしょうか?


この数字はアメリカの2021年の予測給与額の一部を示したものです。

日本の国税庁のデータによると、日本の2020年の平均給与額は436万円なので、高いと感じる方もいらっしゃると思います。「アメリカは物価も高いし、まあこれくらいの数字だろう」と思われる方ももちろんいらっしゃると思うのですが、実はこのデータ、四年制大学を卒業予定の新卒レベルの予測給与額なのです。

新型コロナウィルスのワクチン接種が各地で進んでいる状況もあり、経済活動の制限が緩和され、人の移動も活発になり、雇用に前向きな企業が増加していることを皆さんも感じておられるかと思います。実際にアメリカ合衆国労働統計局の失業率の数値を見ても、昨年2020年4月の14.8%をピークに毎月数値が改善し、先月2021年3月は6%で推移しているなど、雇用関連の明るいニュースは増えてきています。

一方で、従業員を急遽雇い戻したり、新規に採用する企業も増えたことも影響したのか、コロナ前に候補者に提示していた給与額では、面接どころか、レジュメも集まらなくなってしまったというお話も複数のお客様からお聞きしております。業種、職種、各企業で状況は異なるので、ご参考までの数値にはなりますが、新卒レベルの候補者の2021年の予測給与額をNACE (National Association of Colleges and Employers)のデータからご紹介させて頂きます。参考数値としてカッコ内に2020年の給与データも含めております。

Computer Sciences $72,173 (2020年 - $67,411)
Engineering $71,088 (2020年 - $69,961)
Math & Sciences $63,316 (2020年 - $62,488)
Social Sciences $59,919 (2020年 - $57,425)
Humanities $59,500 (2020年 - $53,617)
Business $58,869 (2020年 - $57,939)
Communications $58,174 (2020年 - $56,484)
Agriculture & Natural Resources $54,857 (2020年 - $53,504)

日本の4年制大学卒業の同年代の平均給与額は2019年に厚生労働省が調査しており、そのデータによると、男性が230万円程、女性が224万円程ということですので、アメリカの新卒レベルとの給与額と比較して、3倍近くの大きな差があることがおわかりいただけるかと思います。アメリカでは頻繁に目にする学部ごとの給与データですが、日本では学部ごとで給与額を示すデータを政府機関などが出していることは少なく、こんなところにもスペシャリストを積極的に採用するアメリカとジェネラリストを育成する日本との違いも垣間見えます。

このデータについて、日本で長く勤務されてきた方からすると、

「少し偏ったデータではないのか?」とか
「特別なスキルを持っている従業員にだけ高い金額が出ているのでは?」

という疑問をお持ちになる方もいるのですが、当然のことだと思います。事実、以前に弊社で実施した給与関連のセミナーにアメリカの給与事情の真偽を確かめる為に、日本から出張して参加して下さった方もありました。

アメリカはAt-will Employmentを原則としている国ですので、長期雇用が約束されているものではありません。ですが、在米の日系企業では、基本的に長期にわたっての雇用を見越してのお給与額の設定をされている企業が多い印象です。

反対に米系企業は短期やプロジェクトベースでの雇用を想定している企業も多く、従業員に力を発揮してもらえる期間に従業員の給与として予算を集中投下するという事情もあります。雇用に関しての考え方の違いなので、どちらがいい悪いということではありませんが、理想を言えば、一旦、給与金額の勝負になってしまうと、他社でより良い金額が提示された場合に従業員が離れてしまうということも考えられるので、給与以外の部分で会社が提示できるものをアピールできればよいのですが、従業員にも生活があり、給与という現実の対価も必要になります。

どんなスキルや経験を持った従業員に何をどのように提示していくのかというのは、非常に難しい問題で「これ!」という回答が1つだけ存在する訳ではないのですが、一つだけハッキリと言えることは新たに採用する従業員へのお給与額も含めて、社内の評価制度は一貫したものにしておくべきということです。売り手市場(候補者側が企業を比較的選べる状況にある)で従業員を集めることが出来ない時期にオファー額を高めに設定したことにより、何年か勤務している従業員からクレームがあったという話は良くお聞きします。理想と現実のバランスは考えれば考える程、難しい話なので、社内で理論立てて整理を行っていくことが重要です。弊社でも評価制度の構築のサポートなども行っておりますので、お役に立てる場面がございましたら、お気軽にご相談下さい。

Akihiro Yamada, SHRM-SCP
Actus Consulting Group, Inc.