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2020-09-08
不文律
8月17日、サンディエゴ・パドレス対テキサス・レンジャーズ戦。
パドレスの打席は大リーグ2年目、21歳のフェルナンド・タティス・ジュニア。
タティス選手のバットはボールをとらえ、満塁ホームランとなります。大喜びでベンチに戻りますが、このホームランに、相手チームの監督だけでなく、自軍の監督からも公的に批判されることになり、のちにタティス選手自身も、相手チームに謝罪する結果となりました。

この時の打席は8回表、10対3でパドレスは7点リード。タティス選手のカウントはスリーボール・ノーストライクで、4球目をとらえたスイングがホームランになったものでした。

野球に詳しい方なら、この状況に「あ~」と思われた方もいらっしゃるでしょう。
タティス選手は、野球の不文律を破ったとして、自軍の監督からも非難されたのです。

その不文律とは、“3点以上のリードで、7回を超えた座席では、3ボール・0ストライクからの4球目は、見逃さなければならない。”というもの。

不文律 – 成文化されていないが、成文法に準ずる効力を持つ規則・習慣。
    比喩的に、暗黙の了解事項となっているきまり。
スポーツにおいては、公式ルールではないものの、スポーツマンシップや礼節を重んじるため慣習的に行われているようなもの、となります。

“始球式で打者は必ず空振りをしなければならない。”というのは、よく知られた野球の不文律の一つでしょう。

この出来事で興味を持ち、一体どんな不文律があるのか、と調べたところ野球に関してはたくさんあり、むしろ驚く事態に。
以下、Wikipediaから。

<攻撃側>
- 大差(おおむね6点以上)でリードしている攻撃側は6回以降で、カウント3ボール-0ストライクから内に行ってはならず、また、バント・糖類などの戦術を取ってはいけない。(破った場合は報復対象。)
- 併殺打を防ぐなどの目的で危険なスライディング(スパイクシューズの裏を野手の体に向けるなど)をしてはいけない。(コリジョンルールにより明文化。)
- 打者は(サヨナラ以外の)本塁打を打っても立ち止まって打球の行方を追ったり、バットを投げたり大げさにガッツポーズをとったり、わざとゆっくりとダイヤモンドを回ってはいけない。(破った場合は報復対象。)
- ノーヒットノーラン夜間全試合の阻止、あるいは投手タイトルがかかっている場合でバントをしてはならない。(破った場合は報復対象。)
- 捕手のサインを盗み見てはいけない。また2塁走者が打者にサインを教えてもいけない。(破った場合は報復対象。)
- 二者連続本塁打後の初球は打ちに行ってはならない。
- 死球を受けてもその箇所をさすって派手に痛がってはいけない。
- 相手投手がマウンドで投球練習中に、ダートサークル内に入ってはいけない。
- 走者が三塁(一塁)付近でアウトになるなどして一塁や一塁側(三塁側)ダグアウトに戻る際、マウンドを横切ってはならない。
- (日本では)対戦相手一人だけの引退試合の投手には空振り三振をしなければならない。
- 打者が打席に入る際、球審や捕手の前を横切ってはいけない。
- 投手の集中を妨害するために話しかけたりしてはいけない。
- (アメリカでは)投手が公式ルールで禁止されている松脂などの滑り止め用物質を使用することを黙認しなければならない。

<守備側>
- (日本では)外国出身の選手に王貞治のシーズン本塁打の記録を抜かせてはならない。(2013年にウラディミール・バレンティンが本塁打記録を更新したためなくなった。)
- (日本では)オールスターでは投手はオール直球で打者に挑まなければならない。
- 投手は三振を奪った時や、スリーアウトを取ったときに過度にガッツポーズをしてはいけない。
- 投手は回の途中で交代させられてもすぐにロッカールームに引き上げず、少なくともその回が終わるまではベンチにとどまらなくてはいけない
- 投手は野手に文句を言ってはいけない。
- ボールカウントが3ボール0ストライクになったときには直球を投げる。しかし、相手打者の癖や性格によってはこの限りではない。
- (日本のみ)相手の投手が打席に立ったときは厳しい内角攻めをしてはならない。
- 味方投手がノーヒット投球を継続中のときは、その件をベンチで話題にしてはならない。

<攻守共通>
- 選手はストライク・ボールについての自分の判断を審判に告げてはならない。
- ファウルボールを追った相手選手がダグアウトに落ちる際などにも相手を手助けしてはいけない。
- 審判の判定に抗議するときも審判の指示に従う。
- 試合の結果に関して、相手チームや観客の前で過剰に騒いではいけない。
- もし乱闘になってしまった際は、野球道具を使用してはならない(バットやボールはもちろん、ヘルメットも投げ付けた場合十分な凶器となりうるため)。また相手を強く殴ったり蹴ったりしてはいけない。(選手生命を絶つような行為。)
- もし乱闘になってしまった際はベンチやブルペンを出て、(制止のためにも)乱闘に参加しなければいけない。(破った場合は所属球団からの処分対象。)

<試合外>
- (日本では)クライマックスシリーズのかかった最終戦には記録のかかった引退試合を設定してはならない。
- (日本では)日本シリーズ中に他球団はゴタゴタを起こさず、ファンの視線を日本シリーズに集中させなければならない。

危険行為を避けるためには当然で、明文化されている、またはしてもよさそうなものから、思わず「クスっと」と笑ってしまう様なもの、妙に感心してしまうものもあります。
もしこの不文律を破った場合は、どうなるのか。。。

<ペナルティー>
最も一般的なペナルティーは次打席での故意死球である。この場合でも頭を狙って(ビーンボール)はいけない、相手投手に死球を与えてはいけないという不文律がある。ピッチャーへの報復としては、スイングと同時に故意的にバットを投げつける、ピッチャー返しを狙うなどが挙げられる。

???
不文律はもともと、スポーツマンシップや礼節を重んじるという行為のはずなのに、“故意死球”。
同じ野球をプレイする者として、価値基準も共有しているはずという思いを裏切られた、として、暗黙のルールという掟を破る者には報復を与える、ということになるのでしょうか。

不文律については、明文化されていない分、解釈が異なる場合や、当然年月とともに、価値観の変化にも影響を受けるでしょう。
今回のパドレスのタティス選手にも、擁護する選手やファンもおり、また、ファン不在の不文律に対する不満の意見も出ているようです。
実際、この試合のアナウンサーやコメンテーターは、ホームラン後のタティス選手を称える調子で実況し、不文律には触れていませんでした。
そして彼らはプロで、その一本にタイトルがかかっていたり、年棒に影響を及ぼす可能性があるはずです。

悪しき慣習とならないように、本来の目的を改めて考え直すきっけとなると良いなと思いますが、不文律とはもともと“目に見えず、ましてや口に出さない領域の事柄”。明文化されていない分、変えていくのは難しいことかもしれません。

ことさら不文律の多い野球。大リーグを見るにしても、日本の野球を見るにしても、今まで当然のこととして見ていた選手の行為が、実は、という新しい見方を楽しむのも面白いかもしれません。

神長