2021-02-24
「この桜吹雪に見覚えがないとは言わせねいぜ!」
江戸町奉行の遠山金四郎景元こと金さんが、白州に座る悪者に己の入れ墨を見せて、嘘はつけないよ、迫ります。時代劇「遠山の金さん」のクライマックス。入れ墨なくして「遠山の金さん」は語れません。(入れ墨があったと裏付ける資料は発見されていないようですが。)
しかしながら、入れ墨というと日本では反社会的勢力の人たちを思い浮かべ、どちらかというと、否定的な印象がぬぐえません。
一方、欧米ではタトゥーについて寛容なイメージ。
レディー・ガガさんなどの有名人もタトゥーを入れているため、一部の特に若い人達にはタトゥーはカッコイイというイメージで、ファッションの一部ともなっているようです。
2015年の世論調査によると、アメリカ人の29%が入れ墨を入れており、青年層ではその割合が非常に高く、20代後半の42%、30代の55%が入れ墨を入れているそうです。
けれども、職業によっては、タトゥーについて規制が存在します。
例えばNYの警察官は制服で隠せる範囲でしかタトゥーは認められていません。
アメリカ軍も同様で、通常の制服で隠れないタトゥーはみとめられておらず、攻撃的または、適切でない表現を含むものも認められていません。
寛容ではあっても、何が何でも自由というわけではないようです。
ちなみに、日本では入れ墨を入れている人は、全国民の2%とか。
日本でもファッションとしてタトゥーを入れる人達が表れ始めているとはいえ、入れ墨に対するイメージはネガティブなものです。しかしながら明治政府から禁止されるまでアイヌの女性が口元や手に施す「シヌイェ」や、沖縄では女性が手に入れ墨を彫る「ハジチ」の文化がありました。
「シヌイェ」はアイヌ女性にとっては通過儀礼で、7-8歳で口元から始め、数回にわたって行われ、16-7歳までに手や腕までに施されたそうです。病魔除けのいみもあったそうですが、1人前の女性としての表徴だったようです。
沖縄の「ハジチ」は女性のみが行い、奄美・琉球人であることを示すことで日本本土や中国の人攫いから身を守る役割があったとされます。さらに魔よけや後生(死後の世界)への手形とする民間信仰、成人儀礼としての意味もあり、美しさの象徴ともされていました。
時代をさかのぼり江戸時代には、入れ墨は江戸火消しや鳶などを中心として「粋」を見せるために好んで施し、美意識を形成するものとなっていました。
冒頭の金さんも、粋でいなせな遊び人を装うために、入れ墨は不可欠だったのでしょう。
世界においても入れ墨の歴史は古く、5300年前のアイスマンから入れ墨のような文様が見つかっています。入れ墨には個体識別、刑罰、組織帰属の証、ファッションなど、時代や場所によってさまざまな意味を持って扱われてきました。
日本でも縄文時代の土偶に入れ墨のような文様があることや、縄文人と文化的なかかわりの深い、蝦夷やアイヌ民族に入れ墨文化が存在したため、縄文人にも入れ墨の文化があったのではと推測されており、日本においても歴史は古いようです。
けれども政治や文化にかかわり、様々な役割を担ってきた入れ墨も、近代日本を目指す明治政府により禁止されることとなります。
終戦後の1948年(昭和23年)、米国GHQの占領政策の一環として、再び合法化されるものの、非合法の印象が払しょくされず、また大衆娯楽として台頭したやくざ映画なども入れ墨の印象を形作るものとなったようです。
現在日本の非認可入浴施設(温泉、大浴場、サウナ、スーパー銭湯、健康ランドなど)や遊園地、プール、海水浴場、ジム、ゴルフ場などでは、入れ墨を入れている人への入場を断られることがありますが、これは各施設の規則によるものであり法的な制限はないようです。
それでも施設管理者に逆らった場合は建造物侵入罪(刑法130条前段)にとわれたり、入れ墨をした者が退場を求められても従わなかった場合は不退去罪(刑法130条後段)になるようです。
日本開催のラグビーW杯の際には開催に先立ち、ワールドラグビーは選手やファンに対し、タトゥーが暴力団などの反社会的勢力を連想させるとして、タトゥーを隠す配慮を求めたそうです。
しかしながら、近年訪日外国人観光客が増えてる中で、タトゥーを理由に入浴や施設の利用ができないことを知らずにトラブルになるケースもあり、今後も訪日観光客が増える機会に向けて、インバウンドの環境整備が求められています。
とはいえ、海外のタトゥー愛好者には、日本の伝統的入れ墨の芸術性と高い技術は有名で、スポーツイベントに合わせて日本に行って手彫りの入れ墨を入れることに大金を払うことを厭わない愛好者もおり、日本の彫師によるとスポーツイベントはいつも商売繁盛につながるそうです。
手で彫ったから和彫り、器具を使ったから洋彫りというわけではなく、絵の画風や全体の様子で判断されるとのことですが、日本の多くの彫師が使う手彫りは振動が激しい機械彫りよりも刺激が少なく、傷の治りも早いとか。
技術や芸術性を尊ぶ彫師が注目する事件も起こっています。2017年一審大阪地裁は、医師免許がないのに入れ墨(タトゥー)の施術をしたとして、彫師が医師法違反罪に問われました。2018年2審大阪高裁は「医療を目的とする行為ではない」として逆転無罪となっています。医師法を適用することで、反社会勢力や関係者への取り締まりが目的だったそうですが、今後も抑制のために新法の可能性もあるようです。
ところで、入れ墨を入れている方、これから入れようとされている方、ご存じの方も多いとは思いますが、入れ墨をしている方はMRI検査を受ける際は注意が必要です。
入れ墨やタトゥーのインクには、酸化鉄などの金属材料が使用されている場合が多く、検査の際に火傷や痛み、入れ墨の変色が発生したり、MRI画像にノイズが入ることもあるようです。そのため撮影条件の調整をしたり、低磁場装置を使用するなどの対応や、医師の判断で、MRI検査が受けられない、ということもあるようです。
入れ墨は人間の歴史と深いため興味深く、和洋ともに彫師の方の作品は目を見張るものです。
冒頭の金さん、毎回ストーリーの趣旨はほぼ同じで、勧善懲悪。それでも桜吹雪の金さんは魅力的だったなあ。。。
神長