2009-03-09
縁あって、吉田ソースの吉田社長の講演を聞く機会に恵まれた。
会場はほぼ満員状態。Lighthouse20周年記念講演会と銘打たれた横断幕を背にウエスタンハットをかぶって黒のシャツに黒のパンツという出で立ちで登場した吉田社長。堂々としていながら、偉ぶらない、コミカルな話し振りに, 会場は笑いに包まれて2時間はあっという間だった。
講演のはじめに、吉田さんは、「今夜はすごいエネルギーが会場に満ちてますね、私も燃えますよ、熱くなりますよ、そしたら服もぬいじゃいますよ。皆さんにはね、ここで私のエネルギーをたくさんもらってほしいんです。でもね、帰る時にはちゃんと返してもらいますからね」と言って本題に入っていった。最初は、その意味が今ひとつ分からないまま、私は話に聞き入っていた。
しかし、話が進むにつれ、次第に彼のいわんとする、エネルギーというものが、単なる勢いの意味ではなく、実際に彼自身が信じる己と己の持つ信念から発する磁場のようなものであると分かってきた。「何々を手に入れられたらいいなあ」ではなく、「自分は何々を手に入れるのだ」と思う、その信念の作り出すエネルギー。それは、自然と周りを巻き込んで他人を動かす。
彼は、人生はバスみたいなもんです、と言う。
目的地へ向かってがむしゃらに走ればいいんです、と。「しかし、バスはガソリンがないと走りませんね。ある人がこう聞くんです。ガソリンがなくなったらどうするんですか、と。これに対してわしは、降りて押せばいいでしょう、と答える。すると、相手は、そんな大きな車を一人でなんて、とても動かせる訳がないじゃないですか、と言う。これに対して、わしは、出来る訳ないようなことを一生懸命やってる人を見たら、周りがほっとかない。必ず一緒に押してくれる人が出てくるもんだ、と答えた」のだそうです。
なるほど。磁場のエネルギー。周りを巻き込むエネルギー。これは体験したことのある人が言うから説得力がある。これまでの彼の生き様はまさに、バスを一人でおすようなものだったと思う。
ひょんなことから売る、ということになった彼のお母さんのオリジナルレシピのソースは、手作りで始め、COSTCOでの売り上げを機に、爆発的に売れるようになった。しかし、ある時、デモのチキンばかりを食べた挙げ句一本もソースを買わずに店を出て行ったおばちゃんを、下駄ばきの吉田さんが走って追いかけて、2本買ってもらったというエピソードに、彼の成功の土台がある。「悔しかった」のだと言う。味わってくれたら旨いと分かってもらえると、自ら実演販売で売り込みをしてたのに、この一人のおばさんが、何度もただ食いでそのソースを味わいながらも買ってくれなかった。それが、「悔しかった」その気持ち。その信念。最終的にはその彼の信念がおばさんに2本を買わせる原動力となった。
こんちきしょー!絶対買わせてやる!という彼の信念。今や飛ぶ取り落とす勢いの大型量販店のCOSTCOの副社長をもって言わしめた。いわく、「このクレイジーな東洋人が、この先どこまで行くのか、見てみたい」その結果、今は全世界どこに新規出店する時でも、問答無用で吉田ソースは商品ラインナップに並ぶ。
こんちきしょう、今に見てろ。これは彼の座右の銘だ。2度めの倒産で、どうにもこうにもならなくなり、落ち込んでいる時、彼の奥さんのお父さん、つまり義理のお父さんが家まで来いと言う。今から25年以上前のこと。それまで生粋のアイルランド人気質の彼は、娘が結婚した相手の東洋人で空手をやってる粗野な男を気に入っていなかったのだそうだが、この時、借金でどうにもならなくなっていた吉田さんに、自分の退職金と貯蓄を全て投じて、16万ドルという大金を彼に渡した。この時、初めて義理のお父さんは吉田さんを息子と呼び、吉田さんも心から「お父さん、有り難う」と言った。しかし、そこで彼は、義理のお父さんから一つだけ条件がある、と言われて、これは娘を返せ、と言われるのだとばかり思ったそうだ。しかし義理のお父さんが言ったのは、「この金は必ず返してほしい。これは本当に自分の全財産なんだ」であった。涙ながらにそう言う義理のお父さんを見て、吉田社長は、こんちきしょー!今に見てろ、絶対に全額返してやる!と心に誓ったのだそうだ。
言葉は悪いが、彼の言う「こんちきしょー」と、「今に見てろ」は、彼の言うところの、Positive Revengeを意味する。つまり、してもらったことに感謝し、必ずお返しをする、という心意気なのだ。金を貸してもらった。借金の担保をとるでもなく。そこには善意だけがある。引き換え条件も何もない。それをもらった自分は、絶対に同じように善意を他人にお返しするんだ、という信念。今もそれを守り続ける彼は実に数えきれないほどの寄付を多くの団体へしてきているし、子供がんセンターなど地域の病院を含む、地域に貢献し続ける。数々の感謝状も、表彰状ももらっているが、それでもまだまだ足りないんだと彼は言う。もらったものは絶対にお返しする。当たり前のことのようだけれど、なかなか実践できていないのが私たちの日常ではないだろうか。
言うは易し、行うは難し。でも、実行している彼は、なんと清々しいんだろう。なんと気持ちのいい人なんだろう。信じる気持ち。自分を信じるということ。そこにぐらつきがなければ、苦境に立たされても、必ず活路は見出される。そして、彼は言う。「見栄はいかんですよ。見栄はビジネスには大敵でっせ。」見栄も外聞もなく、目標に向かってひたむきになる。かっこうわるいとか、恥ずかしいと言っているうちは、まだまだひたむきになりきれていないのだと。目的がはっきり見えていて、必ず達成するのだと自分を信じられたら、自ずと回りの状況も、周りの人たちもその方向へ知らず知らずのうちにむかって動き出しているものなんだと。周りを巻き込む勢い、彼の話を聞いていて、その基本は彼の人柄であると私は思った。見栄を張らず格好つけず、いつも正直に、前を向いて歩き続ける。縁を大事にし、縁に育てられ、その恩返しをし続けることで、さらなる縁を産む。まさに良循環。これを育むのも己自身の前向きな精神力のなせる技だろう。
単なるサクセスストーリーとしてではなく、人間の基本に正直に生きた結果が、吉田ソースが売れた訳だった。
あっという間の2時間の後、確かに身内にエネルギーが満ち、心がすうっと広がりを持ち、静かな希望が内に宿るのを感じたのは、おそらく私だけではなかったと思う。冷たい風の吹く3月の夜、三々五々と家路につく人たちの顔には、もらったエネルギーに暖められた笑顔が宿っていた。
吉田潤喜氏のHPは以下参照。
http://www.mryoshidas.com/about.asp
Written by : L.A.Office Naomi Takimoto