2010-02-01
私は仕事以外は、自分の感性に頼って物事を決めて生きているところがあります。感性、とカッコイー言葉で書きましたが、いわゆる心の底の底で、好き!とか嫌い!とか感じることで物事を選択して生きてきている単純な生き物です。
でも、単純ながらに、少しだけですがちゃんと自分なりには筋のある好き嫌いであるようなことがこのところ判明し、自分でもへぇ~え~なんて、感心したことを今日はご披露しようと思います。先週の上司のブログに続き、本当にたいしたお話ではないですが。
ところで、ニューヨークに住んでもう結構長くなってしまいましたが、ニューヨークはすごいところだとつくづく思うことが未だにあります。
例えば、もうものすごく昔の話になりますが、その昔あった「まるちゃん」という定食屋さんにランチを食べに行って通された席の隣に日本が誇るあの世界の小澤征爾さんがお一人でいらっしゃってご飯を食べておられたこともありますし(小澤さんのことを小澤さんとわかっていらっしゃったかどうかわかりませんが、大学生アルバイトっぽいウェイトレスさんは普通に小澤さんからお金をもらい、小澤さんは偉ぶるところひとつなく、しかもとっても丁寧に気持ちよくアルバイトの女の子にお礼をおっしゃっておられました。大物はさすがです。だいたい、「まるちゃん」という定食屋さんで小澤さんがお昼ご飯を食べるのも素晴らしい!)、ティファニーの階段でヨーヨー・マさんとすれ違ったこともあります。ちょっと思いついた例が音楽関係のお2人でしたが、ジャンジョルジュでご飯を食べていて遠くに見かけた、というわけではなく、小澤さんは「まるちゃん」、ヨーヨー・マさんはティファニーでしたけど、階段です。こんなところにこんな偉人が普通に存在するからニューヨークはすごい。そうそう、思い出しました。音楽に関係のない人の例ですが、この間、あるアップルストアーに行ったら、ジョン・スチュアートさんがお子さんと一緒にお店のマックブックで遊んでいました。とにかく、こういう普通のところにこういう人たちが普通に出没し、そしてニューヨーカーは彼らを普通に受け止めるのが礼儀と心得ているのがまたすごい。だから、私も「小澤さんですか?ファンなんです。」なんてとってつけたようなセリフを口にせず、ニューヨーカーを気取って、ツトメテ普通にふるまいましたけれど。でもほんとのところ、ツトメテ普通にふるまっていた以上に、小澤さんを目の前にして何も言えなかった、というのが事実かも。
で、先週の月曜日の夜、うちの近くのBarns & NobleでPaul Austerという作家のイベントがありました。大ファンな私は数週間前から楽しみに楽しみにしていた最近のどきどきな出来事でした。いそいそと早めに出かけ、本を購入すれば先にイベント会場に入場できる、というので、これまたいそいそと本を購入。本を購入する、という支出はあったものの、Paul Austerさんが生で目の前で語ってくれるイベントがうちのすぐ側でなにげなく行われ、しかももちろん無料です。Paul Austerさんは、あまり小説にご興味のない方はご存知ないかもしれませんが、とても有名な作家です。その不思議な世界に私は限りなく魅了されており、彼の世界と村上春樹さんの世界がなんとなく同じような色をしているように思っているのですが、もちろん私は村上春樹さんの大ファンです。ま、それはおいておいて。このイベントはある有名な、作家へのインタビューで構成する雑誌の編集者がPaul Austerさんにインタビューする、というスタイルで行われたのですが、その中の質問のひとつに、「あなたが最初に感銘を覚えた小説は何ですか?」というものがあり、彼は13歳の時に読んだ、The Catcher in the Ryeだと答えました。ものすごい衝撃を受けて、小説がこんな影響を人に与えることができるのだったら、自分は絶対小説を書きたい、と思ったのだそうです。ご存知な方も多いと思いますが、出版された当時はかなりの物議を読んだ同作品、J.D. Salingerという作家によって書かれた小説で、日本語にも「ライ麦畑でつかまえて」というタイトルで翻訳されています。私は日本の大学で勉強をしたことで、このサリンジャーという人の世界に出会い、ライ麦畑はもちろんのこと、すっかりサリンジャーファンになりました。(日本の大学生は勉強をしないと決め付けちゃダメですよ!)その後、あることがきっかけで村上春樹ワールドにはまり、ポール・オースターの本に出会ってやっぱりポール・オースターワールドにはまり、その原点がサリンジャーにあったのかもしれない、と先週の月曜日の夜、マンハッタンアッパーイーストサイド86丁目のBarns & Nobleで私はそう思ったのです。そして村上春樹さんもこのThe Catcher in the Ryeを翻訳しています(私はまだ読んでいないのですが)。ほら、ね。つながった。好み、というのはあるものだ、とつくづく感心し、そして、村上春樹ワールドやポール・オースターワールドをこよなく愛する私の感性の原点がサリンジャーにあったことに私はとても心地のよい感動と満足感を覚えたのでした。
買った本を手に持って、サインをもらう列に並んでいた時は、頭の中で、私はもう15年以上もあなたの大ファンで、日本にいた時にあなたの本に出会ってそれ以来あなたの素敵で不思議な世界にはまっています。だから、夢で会いましょう、って書いてください、なんて言おうとか思ってさんざん練習していたものの、実際にポール・オースターさんの前に立ったら、わきまえている(?)ニューヨーカーの私は、Thank youしか言えず、私の本にはPaul Auster(サイン)しか書かれず、この一大イベントは幕を閉じました。でも、やぱり、ポール・オースターさんにThank youと言えたのはニューヨークならではであり、ここはやっぱりすごいところだと、今でもそのことを思い出すとドキドキしています。
そして、先週、J.D.Salingerはもう何十年も人を避けて暮らし続けていた山の中の家で静かに息をひきとりました。享年91歳。純粋と変わらないものとやさしさと救いを追求した人だと私は思っています。
((大矢))