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2011-06-03
Never Let Me Go
今、Never Let Me Goという小説を読んでいます。
Kazuo Ishiguroという作家の作品で去年だったか映画にもなりましたから既に読まれた方も、または映画は観ました、という方もいらっしゃるかと思います。

Kazuo Ishiguroという作家は日系イギリス人で、かなり有名な作品としてはやはり映画にもなったRemains of the day(邦題「日の名残」)なんかがあります。もう何年も前のことですが、私の中でアジア系作家ブームが一大旋風を吹かせたことがあり、Barns & Nobleに行っては本の並んでいる棚をにらんで、なんとなく、選んで購入した本の1冊がたまたまイシグロさんの本で、非常に不思議な魅力のあるストーリーにすっかり魅了され、以来私の大好きな作家のひとりとして君臨していらっしゃいます。

さて、この Never Let Me GO という作品。いつもなら読み始めるとすぐにイシグロワールドに吸い込まれ、本を置くのが大変なくらいになるものなのですが、どうもこの作品には馴染めず、頁が進まなく、中断してはまた最初から読み始めたり、なんていうことを繰り返しているうちに本を手にすることもなくなり数年が経ってしまいました。そんなことがきっかけで、イシグロワールドからも暫く足が遠ざかり、ここ数年イシグロ作品に全く意識が触れることなく過ごしてしまったのですが、先日、ネットフリックスから届いたあるDVDの予告編の中にこのNever Let Me Goが含まれており、その予告編を観て、お~、そうだった。そうだった。この小説は珍しく挫折したんだったと思い出し、ひとまず映画を観てみようという気分に。

そして映画を観た私はすっかり再びイシグロワールドに呼び戻され、またまた最初から小説を読み始めている次第です。今回は映画で大筋はわかっているせいか、はたまた、私の精神状態が違うのか、しっかりと、本を開くとネバーレットミーゴーワールドに飛び込んでいます。まだ3分の1くらいしか読んでませんが、非常に楽しい読書時間を送っております。

お話しをかいつまんでお伝えすると、医療用にクローンされたクローン人間の子供たちが集団生活の中で人間として教育も受け、また自分の役割も受け入れ、大人になると臓器をひとつひとつ提供し、数度目の手術でその存在意義をまっとうする「人生」を送る中での様々な感情や生きることへの期待との葛藤、希望と挫折そして受け入れ、といった心の成長を描写したものです。つまりクローンであろうと普通に生を受けた人間であろうと、命には魂が宿るものだ、ということをイシグロ氏は書いているのではないかと思います。まだ小説を読み終えていないので結論ではありませんが。特に何かに対する抗議ではなく、人間の魂について深く考えたお話しなのではないかと思います。では魂はどこに宿り、いつ宿るものなのだろう、とこのところよく考えています。

技術としては既に人間のクローンは可能ではあるものの解決できない倫理の問題があって人間のクローンは実用化されていないと聞きました。小説はあくまで小説の世界ですから、今後医療用にクローン技術が実用化されるとしても、まさか人間として育てて大人になってから臓器を収穫する、なんていうことはありえないと思います。ですが、命の誕生無くして臓器の誕生もなく、従って人間としておぎゃぁ~と産声をあげなくても命は命。経験によって生まれていく感情はまだそこにはないものの、感情をつかさどる魂はそこにあるのではないかと思うのです。そうすると、そういう臓器や血液の一滴にも命が流れていて魂が宿っているのではないでしょうか。臓器移植はそれが問題なのではないかと。移植された臓器が非移植者の体質にあわない、というのはきっと、2つの魂が相容れないものがあってのことなのでは。

つまり、魂は私たちのDNAの中に宿っているもので、ここに私が存在するまでにミャクミャクと受け継がれてきた命のバトンの受け渡しこそが魂なんじゃないかと思ったりします。そう考えると、魂の中にたくさんの声があってたくさんの感情があって私たちが不変な存在でいられないことにも納得がいきませんか。何かを決断しようとするときに、私の魂の中のたくさんのパネリストがパネルディスカッションをして結論が生まれるのではないかと。

タイミングよく、今朝のToday Showでクローンではないものの似たような話題がとりあげられていました。20年も前のことですが、16歳のお嬢さんが悪性の白血病と診断され骨髄移植しか助かる道はなくなった家族の決断についてです。家族、親戚はもちろん、知り合いや知らない人にもお願いをしてその女の子に適合する骨髄を捜したものの適合者が見つからず、この家族のとった決断はもう一人子供を作る、という道だったそうです。もちろん適合しない可能性もあるものの、ではありましたが。無事お母さんは妊娠をし、元気な女の子を出産。そしてその子は適合者だったのです。白血病になった子の命を救うために子供を産むなんて、しかもその子供には移植に同意することが強要されておりNOと言うことができない、といった観点から医学的倫理に反する、命の創造という聖なる営みに反する、とかなりの批判があった決断だったそうです。

20年後、今朝のToday Showにはこの姉妹が仲良く登場。移植を受けたお姉さんは、妹は私の命の全て、と言い、妹は、お姉さんの病気がなかったら私はこの世の中に生まれてくることはなかったのだから、こういう使命を持って生まれてきたことを誇りに思うし、この家族の一員であることを幸せに思っています、と幸せそうに話していました。妹の命がお姉さんの命を救い、こうやってずっと命が続いているのです。Never Let Me Goです。まさに。妹さんはもちろん移植が終わったら、ぽい、と捨てられたわけじゃありません。立派な人間としてちゃんと育てられ成長し社会の一員として存在しているので、イシグロ氏のこの小説のプロットとは全く違いますが、でも、そういうことなんじゃないかと思うのです、命や魂というものは。だから。命も魂も骨髄の中にも存在しているんじゃないかと。

そんなことをつれづれと考えていると、なんだかいまどき珍しい大根足もアルコールを分解できない肝臓もなんだかいとおしくなったり君たちも生きてるんだ、と思うと意味なくえらいなぁ、なんて思ったり。私はこの先命のバトンタッチという役割を果たすことがないように思うので、もし万が一植物人間になってしまったり脳死という状況になってしまうことがあれば、臓器提供をしたいなぁ、と改めて思い、リビングウィルを書いておこうか、なんてぼぉ~っと考えています。私の肝臓をもらった人はお酒が飲めなくて可愛そうですし、私の角膜をもらった人はアレルギー性結膜炎も一緒にもらってもらうことになると思いますが、それはご勘弁くださいませ。舌の移植なんて可能なのかなぁ。もし私の舌をもらう方がいらっしゃったら、かなり甘い味がするものと思われます。

この世に生を受けこうやって生きてこられていること自体がミラクルみたいなものです。魂を大切にいつかやってくる最期までちゃんと生き続けなければいけませんね。

((大矢))