アメリカで就職や移住を考えるとき、日本よりも医療費がかかるというイメージがあり、どれぐらい医療費がかかるのか心配になる人もいるかもしれません。
アメリカの医療保険を理解するうえで重要なのは、日本の仕組みとの間にある「加入する保険の種類」「医療費の自己負担の決まり方」「保険適用可能な医療機関」という3つの違いを把握することです。
この記事では、この3つの違いを整理したうえで、会社から提示された医療保険の条件を読み取り、就職・転職時に給与と合わせて待遇を比較する方法を解説します。
日本とアメリカの医療保険の3つの違い
アメリカでは現役世代の多くが民間医療保険に加入する
日本では、会社員は勤務先の健康保険、自営業者やほかの制度に加入していない人は国民健康保険に加入するなど、原則として全員が公的医療保険で保障されます。その一方で、アメリカでは、全国民が同じ公的医療保険に加入する仕組みにはなっていません。
もちろん、アメリカにも公的医療保険はありますが、その対象者は限定的です。主に65歳以上の人や一定の障害がある人が加入するMedicare(メディケア)や、所得などの条件を満たす人が加入するMedicaid(メディケイド)、一定の条件を満たす家庭の子どもが主な対象となるCHIPなど、アメリカの公的医療保険は被雇用者やその家族が必ずしも加入できるわけではありません。
そのため、公的医療保険の対象にならない現役世代は、民間医療保険が主な加入先となります。U.S. Census Bureau(米国国勢調査局)によると、2024年は19~64歳の74.0%が民間医療保険でカバーされていました。
会社員は、勤務先が提供するEmployer-Sponsored Health Insuranceに加入するケースが一般的です。勤務先が保険を提供していない場合には、Health Insurance Marketplaceなどで個人向けの民間保険を探すことも可能です。このMarketplaceは様々な保険の内容を比較・購入する仕組みです。
したがって、就職・転職時には、勤務先が医療保険を提供しているかだけでなく、自分が加入条件を満たすか、配偶者や子どもも加入できるか、保険がいつから有効になるかを確認する必要があります。
アメリカでの医療費の自己負担はプランによって変わる
このように、アメリカでは勤務先ごとに異なる保険が提供されていたり、あるいは自分自身で保険に加入したりする仕組みであるため、医療費の自己負担額は保険の契約内容によって大きく異なります。
たとえば、一定の健康診断や予防接種は自己負担なし、一般医や専門医の診察は定額負担といったプランもあれば、請求された医療費の一定金額までは全額自己負担で、その一定金額を超えた部分については超過分の20%を負担するといったプランもあります。このように、アメリカの医療保険では、「受診したら一律で何割を支払う」とは限りません。
そのため、「自己負担は何割か」だけで判断せず、医療サービスごとの負担方法と、年間で最大いくら支払う可能性があるかを確認する必要があります。
アメリカではプランによって利用できる医療機関と負担額が異なる
アメリカではプランによって保険が適用できる医療機関と負担額が異なる点にも注意が必要です。日本では、原則として患者はどの医療機関でも公的医療保険を利用して受診できます。それに対して、アメリカの民間医療保険には、保険会社と契約している医師や病院のネットワークが設定されており、どの医療機関でも保険が適用できるわけではありません。
このときに考えるべき点がIn-NetworkかOut-of-Networkなのか、また保険の契約内容です。
アメリカではプランと契約している医療機関をIn-Network、契約していない医療機関をOut-of-Networkと呼びます。In-Networkは保険が使えるため負担を抑えやすい一方、Out-of-Networkでは契約内容次第では自己負担が高くなったり、緊急時などを除いて保険の対象外になったりする場合があります。
こうした医療機関ネットワークの利用ルールによって、代表的なプランは以下のPPO・POS・HMO・EPOの4つです。
- PPO:Out-of-Networkでも保険適用可。ただし、自己負担が高い傾向にある。
- POS:条件次第ではOut-of-Networkでも保険適用可。専門医の受診にはかかりつけ医からの紹介状が必要となることが一般的。
- EPO:Out-of-Networkは原則、保険適用外。
- HMO:Out-of-Networkは原則、保険適用外。ネットワーク内の専門医の診察を受ける際には、かかりつけ医からの紹介状が必要なことがある。
また、同じ保険会社でも、プランによってネットワークが異なる点にも注意が必要です。自宅や勤務先の近くに利用しやすい病院があるか、かかりつけ医や日本語対応の医療機関がIn-Networkに含まれるかを確認しましょう。定期的に服用する薬がある場合は、処方薬の保障も確認が必要です。

就職・転職時は医療保険を給与と合わせて比較する
ここまで解説してきた内容から分かるように、会社の医療保険はその内容によって自己負担額が大きく変わります。そのため、就職・転職時には、会社が提供する医療保険の内容も基本給などと同様に待遇を大きく左右する要因として、比較・検討することをおすすめします。その際、医療保険の内容として理解すべきポイントは保険料と受診時の負担です。
保険料と年間の自己負担額を確認する
医療保険の費用は、加入を続けるための保険料と、医療を利用したときの自己負担に分かれます。条件を理解するには、次の5つの用語を確認しましょう。
| 用語 | 意味 |
| Premium | 保険へ加入し続けるために支払う保険料。会社の保険では、従業員負担分が給与から差し引かれることがある。 |
| Deductible | 保険会社が医療費を分担し始める前に、加入者が年間で負担する金額。 |
| Copay | 診察や処方薬などを利用するたびに支払う定額の自己負担。 |
| Coinsurance | Deductibleに達した後などに、医療費の一定割合を負担する仕組み。 |
| Out-of-Pocket Maximum | 対象となる医療について、Deductible、Copay、Coinsuranceなどを1年間に負担する金額の上限。 |
たとえば、Deductibleが1,500ドル、Coinsuranceが20%、Out-of-Pocket Maximumが5,000ドルのプランを考えてみましょう。その年の保険対象となる医療費が6,500ドルだった場合、単純化すると、まず最初の1,500ドルを本人が負担します。その後、残りの5,000ドルについて20%に当たる1,000ドルを負担するため、医療費に対する本人負担は合計2,500ドルです。残りの4,000ドルは保険会社が負担します。まとめると、この例では、6,500ドルの医療費に対する加入者の自己負担は2,500ドルとなり、これとは別に、保険へ加入するためのPremiumも負担することとなります。
この例では加入者が負担する医療費の年間上限である5,000ドルに達していませんが、入院や手術などで対象となる自己負担が5,000ドルに達すると、その年の残りのIn-Networkでの保険対象となる医療費は原則として保険会社が負担します。
ただし、すべての医療にDeductibleが適用されるとは限りません。予防医療は自己負担なし、一般診療や処方薬は最初からCopayとなる場合があります。一方、Premium、保険対象外のサービス、一定のOut-of-Network診療などはOut-of-Pocket Maximumに含まれないこともあります。
したがって、Premiumや自己負担上限の数字だけを見るのではなく、診察、検査、入院、処方薬にどの条件が適用され、どの支払いが年間上限に算入されるのかまで確認しましょう。
求人票の「医療保険あり」だけで待遇を判断しない
求人票に医療保険ありと記載されていても、会社がすべての費用を負担するとは限りません。会社負担の割合や選べるプランは勤務先によって異なります。そのため、医療保険の有無だけでなく、その内容もしっかりと確認することが重要です。
オファーを受けたら、本人分と家族分のPremium、Deductible、Copay、Coinsurance、Out-of-Pocket Maximumを確認しましょう。利用したい医師や病院、処方薬、妊娠・出産など、必要な医療の保障も確認することをおすすめします。Dental Insurance(歯科保険)やVision Insurance(眼科・視力保険)は通常の医療保険とは別枠になっていることが多いことにも注意が必要です。
たとえば、A社はB社より年収が5,000ドル高くても、家族分のPremiumが年間4,000ドル高く、Deductibleや自己負担上限も高いかもしれません。一方、B社は基本給がやや低くても、会社の保険料負担が大きく、家族が通院したときの負担を抑えられる場合があります。このケースでは、基本給だけを見てA社の待遇がよいとは判断できません。
こうした医療プランを比較するときは、Summary of Benefits and Coverage(SBC)を確認しましょう。SBCには保障内容や費用負担、制限や例外がまとめられています。Premiumが記載された会社の資料と合わせ、給与を含むTotal Compensationで比較しましょう。
保険の終了日と開始日を確認して空白期間を防ぐ
転職時には、前職の医療保険が終了する日と、新しい勤務先の保険が始まる日を確認することを忘れないようにしましょう。前職の保険が退職日に終了する場合もあれば、その月の末日まで利用できる場合もあります。また、新しい会社の保険が入社日から始まるとは限りません。保険の空白期間が生じてしまった場合、その期間に診察を受けると全額自己負担となってしまう可能性があります。
空白期間が生じる場合は、配偶者の勤務先の保険や退職などで医療保険を失った場合にそれまでの保険を一定期間継続できる制度であるCOBRA、Marketplaceを通じて自分で加入することなどを検討しましょう。COBRAでは同じ保険を通常18か月まで継続できる可能性がありますが、会社負担分を含む保険料と事務手数料を自分で支払うのが一般的です。そのため、在職中より保険料が大幅に高くなる場合があります。
まとめ|3つの違いと年間の負担額を確認しよう

日本とアメリカでは、現役世代が加入する保険の種類や医療費の自己負担、利用できる医療機関の考え方が異なります。公的医療保険が中心の日本とは異なり、アメリカでは民間医療保険が中心で、自己負担と保険が利用できる医療機関のネットワークはプランごとに変わります。
そのため、就職・転職時には、求人票に医療保険ありと書かれているだけで判断せず、本人と家族のPremium、年間の自己負担上限、必要な医療の保障、利用できる病院を確認しましょう。さらに、前職の保険の終了日と新しい保険の開始日を確認し、無保険になる期間を防ぐことも重要です。
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アメリカの医療保険に関するよくある質問(FAQ)
- Qアメリカでは医療保険に加入する義務はありますか?
- A
連邦税上、医療保険に加入していない場合の罰金は2019年以降0ドルです。ただし、一部の州では独自の加入義務やペナルティがあります。罰金の有無にかかわらず、無保険では高額な医療費を自分で負担する可能性があるため、居住する州のルールと利用できる保険を確認しましょう。
- Qアメリカの会社員は全員、勤務先の医療保険に加入できますか?
- A
全員が必ず加入できるとは限りません。勤務先が医療保険を提供しているか、フルタイム勤務などの加入条件を満たしているかによって異なります。本人だけでなく家族の加入条件、Premium、保険の開始日も確認してください。
- Qアメリカの医療保険では年間いくらまで自己負担しますか?
- A
プランごとに異なります。Out-of-Pocket Maximumが保険対象となる医療費の自己負担上限の目安になりますが、Premium、保険対象外のサービス、一定のOut-of-Network診療などは上限に含まれない場合があります。
- Q退職すると会社の医療保険はいつまで使えますか?
- A
終了日は勤務先のプランによって異なります。退職日当日に終了する場合も、その月の末日まで利用できる場合もあるため、人事担当者やベネフィット資料で確認してください。
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