アメリカの最低賃金はいくらなのかを調べると、「時給7.25ドル」と「時給20ドル超」という大きく異なる数字が見つかり、戸惑う方も多いのではないでしょうか。
答えが一つに定まらないのは、連邦政府が定める最低賃金を土台に、州や市・郡が連邦より高い最低賃金を定めているためです。実際に適用される金額は、勤務地によって大きく変わります。
この記事では、アメリカの最低賃金を決める連邦・州・市の三層構造と、日本の制度との違いを解説します。あわせて、最低賃金、生活費、職種別の給与相場を組み合わせ、在米日本人が自分の収入や転職先の条件を相対的に判断するための見方を紹介します。
アメリカの最低賃金はいくら?連邦・州・市の三層構造を解説
連邦最低賃金は時給7.25ドル(2009年から据え置き)
アメリカの連邦最低賃金は、2026年7月時点で時給7.25ドルです。これは、Fair Labor Standards Act(FLSA:公正労働基準法)によって定められているもので、2009年7月24日に現在の金額へ引き上げられて以降、改定されていません。
ただし、7.25ドルがすべての労働者に適用されるわけではありません。州や市がより高い最低賃金を定めている場合は、原則として労働者に最も有利な水準が適用されます。連邦最低賃金は、アメリカ全体に共通する土台と考えると分かりやすいでしょう。
州の最低賃金:30州とワシントンD.C.が連邦水準を上回る
米国労働省の2026年1月1日時点の一覧では、30州とワシントンD.C.が連邦最低賃金の7.25ドルを上回る水準を設定しています。州によって大きく異なる点には注意が必要です。
たとえば、州全体に適用される一般的最低賃金が最も高いのはワシントン州の時給17.13ドルで、コネチカット州の16.94ドル、カリフォルニア州の16.90ドルが続きます。それに対して、テキサス州やペンシルベニア州などでは、連邦最低賃金と同じ時給7.25ドルが基準です。また、アラバマ州やミシシッピ州のように州独自の最低賃金を設けていない州でも、多くの労働者には連邦最低賃金が適用されます。
このように、州によって最低賃金には2倍以上の差があります。そのため、「アメリカの最低賃金はいくらか」を考える際は、まず勤務する州を確認する必要があります。
市・郡の最低賃金:シアトル市など時給20ドルを超える例も
州の最低賃金とは別に、市や郡がより高い最低賃金を定めている場合があります。たとえば、2026年のワシントン州最低賃金は時給17.13ドルですが、シアトル市では21.30ドルが適用されます。
ただし、すべての州で市や郡が独自の最低賃金を設定できるわけではありません。テキサス州、ペンシルベニア州、アラバマ州などでは、州法によって自治体による独自設定が制限されています。
そのため、最低賃金を確認するときは、州の金額だけでなく、市や郡に独自の基準があるか、その州が自治体による独自設定を認めているかも確認する必要があります。
複数の基準が重なる場合は、労働者に最も有利な水準が適用される
ここまで説明をしてきたように連邦・州・市がそれぞれ独自に最低賃金を設定しているため、同じ場所でも複数の基準が設定されている場合があります。この場合、雇用主は原則として、3つの基準のうち最も高い最低賃金を支払う必要があります。
たとえばシアトル市内では、連邦の時給7.25ドル、ワシントン州の17.13ドル、市の21.30ドルのうち、21.30ドルが適用されます。
これに対し、シアトル市の北側に隣接するショアライン市には独自の最低賃金がなく、一般には州の17.13ドルが基準です。隣接する市でも、最低賃金に時給4ドル以上の差が生じます。
このように、同じ都市圏でも勤務先住所によって適用額が変わる場合があります。求人票に「Seattle Area」などと記載されているときは、実際の勤務先住所と自治体の基準を確認しましょう。企業規模や業種などの適用条件にも注意が必要です。
日本の最低賃金制度との違い

日本は都道府県別の地域別最低賃金(2025年度の全国加重平均は1,121円)
日本の最低賃金は国や市町村レベルで定められているわけではなく、都道府県別で定められています。
最高は東京都の1,226円、最低は高知県、宮崎県、沖縄県の1,023円となっています。47都道府県の最低賃金の適用を受ける労働者で重みづけをした全国加重平均では1,121円となっています。
アメリカは連邦を下限に州・市が独自に設定
都道府県レベルで最低賃金が決まる日本とは異なり、アメリカでは、連邦最低賃金を共通の土台としながら、州や市・郡がより高い最低賃金を独自に定めます。そのため、州が違えば金額が変わるだけでなく、同じ州内でも勤務する市や郡によって適用額が異なる場合があります。アメリカで働く場合にはこの点に気を付ける必要があります。
物価連動で自動改定される州と審議会方式の日本
また、最低賃金の改定方法にも違いがあります。アメリカでは、消費者物価指数に連動して毎年自動的に調整する地域や法律で段階的な引き上げ額を定める地域、長期間据え置く地域が混在しています。改定時期も1月や7月など地域によって異なります。
それに対して、日本では、主に労働者の生計費・地域の賃金水準・企業側の賃金支払い能力という3つの要素をもとに審議を経て都道府県ごとの金額が決まります。また、発効日も都道府県ごとに定められます。
チップ労働者向け最低賃金(Tipped Minimum Wage)などアメリカ特有の区分
日本とアメリカの賃金の違いを理解する上で、チップ制度の有無も非常に重要な要素です。アメリカでは、レストランの接客担当者など、日常的にチップを受け取る従業員にはTipped Minimum Wage(チップ労働者向け最低賃金)という仕組みが適用される場合がある点には注意が必要です。
FLSAにおいて、最低賃金が7.25ドルと定められていると説明しましたが、一定の要件を満たす場合、雇用主が直接支払う現金賃金を時給2.13ドルとし、チップを連邦最低賃金との差額に充てるTip Creditが認められています。ただし、現金賃金とチップの合計が7.25ドルに届かなければ、雇用主が不足分を補わなければなりません。
州によっては、この仕組みを制限しています。たとえば、ワシントン州ではチップを州最低賃金の支払いに充てることはできません。求人票に「時給+Tips」と書かれている場合は、記載された現金賃金だけで判断せず、州・市の最低賃金とTip Creditのルールを確認しましょう。
| アメリカ | 日本 | |
| 基本構造 | 連邦・州・市や郡の複数層 | 都道府県別の地域別最低賃金 |
| 実際の適用額 | 重なる基準のうち原則として最も高い額 | 勤務地の都道府県の最低賃金 |
| 改定方法 | 物価連動、段階的引き上げ、据え置きなど地域ごとに異なる | 労働者の生計費・地域の賃金水準・企業側の賃金支払い能力をもとに改定 |
| 改定時期 | 1月、7月など地域によって異なる | 都道府県ごとに異なる |
| チップ労働者 | 通常とは異なる現金賃金を認める場合がある | 同様の一般的なチップ控除制度はない |
最低賃金から考える勤務地と収入水準の見方
最低賃金が高い地域は生活費も高い傾向がある
「余裕のある生活をしたい」と考え、最低賃金が高い地域で働こうと考える場合は注意が必要です。最低賃金が高い地域では、住宅費、食費、交通費、医療費なども高い傾向にあります。そのため、「時給が高いから生活にも余裕がある」とは単純にいえません。
このように、実際の暮らしやすさを考えるには賃金水準だけでなく、各地域の生活費も考える必要があります。
MIT Living Wage Calculatorで地域の生活コストを確認する
その地域の生活費を確認するときに参考になるのが、MIT Living Wage Calculatorです。MIT Living Wage Calculatorは、住居費・食費・医療費・交通費・保育費・税金などをもとに、外部の援助に頼らずに基本的な生活を維持するために必要な最低限の賃金水準を示したものになります。
たとえば、アメリカで最低賃金が最高水準にあるシアトルでは最低賃金が21.30ドルと定められています。しかし、そのシアトルを含んでいるワシントン州キング郡に住む子どものいない単身者のLiving Wageは時給30.60ドルと推計されています。そのため、最低賃金の水準が高いといえどシアトルでは最低賃金だけでは基本的な生活費を十分に賄えない可能性があります。
自分の給与を「地域の賃金相場」のなかで相対化する
自分の給与が妥当かを判断するには、金額だけを見るのではなく、勤務地の生活費や同じ職種の賃金相場と比較することが重要です。
最低賃金は雇用主が下回ってはならない法的な下限にすぎず、現在の給与が生活に必要な水準を満たしているか、経験や専門性に見合っているかまでは示してくれないためです。最低賃金を上回っていても、地域の生活費に対して低すぎたり、同じ仕事をする人の市場賃金を大きく下回っていたりする可能性があります。
そこで、自分の収入を判断するときは、次の三つの基準を分けて確認しましょう。
- 勤務地に適用される最低賃金
- 地域で基本的な生活を維持するために必要とされるLiving Wage
- 同じ地域・職種で実際に支払われている市場賃金
このように複数の基準で給与を相対化することで、現在の給与や転職先から提示されたオファーが、法的な下限を満たしているだけなのか、生活費を賄える水準なのか、さらに自分の経験や専門性に見合った市場水準なのかを判断しやすくなります。給与交渉や転職先の選択を、提示された金額の印象だけで決めないためにも、地域と職種の賃金相場を確認することが重要です。
求人票の給与レンジ(Pay Transparency Law)と併せて確認する
転職先の給与水準を判断する際は、求人票の給与レンジも確認しましょう。最低賃金や地域平均だけでは、企業がその職種・職位をどの程度で評価しているかまでは分からないためです。
たとえば、カリフォルニア州やニューヨーク州などでは、一定の求人広告にPay Scale(給与レンジ)の掲載を求める制度があります。求人票に給与レンジが示されていれば、最低賃金よりも実際の職種・職位に近い市場水準を確認できます。
ただし、レンジの幅が広い求人もあります。自分の経験が下限・中央・上限のどこに当たるのかを考え、基本給だけでなく、ボーナス、株式報酬、医療保険、401(k)の会社拠出なども含めて比較しましょう。
転職・勤務地選びで最低賃金情報を活用するポイント

DOL・州労働局の公式情報で最新の水準を確認する
最低賃金を確認するときは、最終的に政府機関の公式情報を参照しましょう。最低賃金は定期的に改定されます。さらに、州内でも市や郡による上乗せや、業種・企業規模・年齢・チップの有無などによって適用条件が細かく変わるためです。
まず米国労働省(DOL)で連邦・州の水準を確認し、次に州労働局や市・郡の公式サイトで、勤務先に適用される金額と発効日を調べます。まとめサイトは全体像の把握には便利ですが、応募や給与確認の段階では公式情報に戻ることが大切です。
引っ越しを伴う転職では移転先の州・市の水準を事前に調べる
州をまたぐ転職では、年収だけでなく、移転先のLiving Wageと、その内訳となる家賃、税金、医療費、交通費も確認しましょう。同じ年収でも、地域によって実際の生活水準が異なるためです。
また、前述のように、同じ都市圏でも勤務先の市によって最低賃金が異なる場合があります。求人票に広い地域名しか記載されていないときは、実際に働く事業所の住所まで確認する必要があります。
給与交渉の際の基礎データとして活用する
給与交渉では、最低賃金ではなく、市場賃金と自分の経験を主な根拠にしましょう。最低賃金は法的な下限であり、専門職や管理職の適正な給与水準を直接示すものではないためです。
ただし、勤務地の最低賃金を確認したうえで、政府公表の職業別・雇用賃金統計での水準や求人票の給与レンジ、同職種の実際の求人条件をそろえると、提示額が市場のどこに位置するかを説明しやすくなります。自分の経験やスキルが職務にどう貢献できるかと併せて整理することが、説得力のある交渉につながります。
都市別の求人検索やキャリア相談を活用する
在米日本人の転職では、給与に加えて、ビザサポート、勤務地、通勤環境、家族の生活条件、医療保険なども判断材料になります。同じ職種でも都市によって給与水準と生活費が異なるため、勤務地を変えた場合に応募できる求人や総合的な待遇まで比較することが大切です。
Actusでは、アメリカでの就職・転職を考える方に向けて、都市別の求人検索やキャリア相談を提供しています。給与レンジだけでなく、勤務地、職務内容、ビザサポートなどを含めて求人を比較したい方は、Actusの求人情報、新規登録、お問い合わせを活用してみてください。
まとめ
アメリカの最低賃金は、連邦・州・市や郡がそれぞれ基準を定める多層構造です。日本よりも細かな地域単位で適用額が変わるため、勤務先の州だけでなく、市・郡や実際の事業所住所まで確認する必要があります。
転職先を比較するときは、最低賃金だけでなく、Living Wage、職種別の市場賃金、求人票の給与レンジ、福利厚生も併せて確認しましょう。複数の基準から給与を判断することで、勤務地と自分の経験に見合った条件かを見極めやすくなります。
よくある質問(FAQ)
- Qアメリカの最低賃金はいくらですか?
- A
2026年7月時点の連邦最低賃金は時給7.25ドルです。ただし、多くの州や市がこれを上回る金額を定めているため、実際の適用額は勤務地によって異なります。
- Qアメリカで最低賃金が一番高い州・都市はどこですか?
- A
州ではワシントン州の17.13ドルが高い水準です。州ではありませんが、ワシントンD.C.は2026年7月1日から18.40ドルです。市レベルではシアトル市の21.30ドルなど、時給20ドルを超える例があります。ただし、市・郡の制度には企業規模や業種などの条件があるため、単純な全国順位だけで判断せず、勤務先に適用される基準を確認してください。
- Q連邦最低賃金はなぜ長年上がっていないのですか?
- A
連邦最低賃金を引き上げるにはFLSAの改正が必要です。現在の7.25ドルは2009年7月24日から続いています。その間に、多くの州や自治体が独自に最低賃金を引き上げてきました。
- Qチップをもらう仕事の最低賃金はどうなりますか?
- A
FLSAでは、一定の条件を満たすチップ労働者について、雇用主が直接支払う現金賃金を時給2.13ドルとすることがあります。ただし、チップとの合計が適用される最低賃金に届かなければ、雇用主が不足分を補う必要があります。州や市によっては、より高い現金賃金を定めたり、Tip Creditを認めなかったりする場合があります。
- Q日本とアメリカの最低賃金はどちらが高いですか?
- A
為替レートだけで単純に比較することはできません。アメリカは地域による差が大きく、日本も都道府県ごとに金額が異なります。さらに、生活費、税金、医療保険、チップ制度などにも違いがあります。勤務地の最低賃金を円に換算するだけでなく、その地域のLiving Wageや職種別の給与相場を含めて比較することが大切です。
