アメリカで働いていると、ある日突然「Your position has been eliminated(あなたのポジションは廃止されました)」と告げられることがあります。日本では解雇が例外的な出来事として受け止められやすいため、「自分の能力に問題があったのではないか」と不安になる方もいるでしょう。

しかし、Layoff(レイオフ)は、必ずしも本人の能力不足を意味しません。米国労働統計局(BLS)のJOLTSによると、2026年5月のLayoffs and Discharges(レイオフ・解雇)は約170万件でした。アメリカでは、会社の業績悪化や組織再編、職務の廃止などによって、月単位でも大規模な雇用主都合の離職が発生しています。そのため、レイオフを受けた場合でも、まずは会社側が示す理由や条件を確認し、次の対応を冷静に進めることが大切です。

アメリカにおける解雇に冷静に対応できるよう、この記事では日本とアメリカの解雇に対する考え方の違いと解雇後に確認すべきお金、保険、就労資格への対応を解説します。

アメリカで解雇が起こりやすい理由:At-will employmentとは

At-will employmentでは雇用関係を柔軟に終了できる

アメリカで解雇が起こりやすい理由の一つが、At-will employmentです。At-will employmentとは、期間や終了条件を定めた契約などがない限り、従業員と雇用主のどちらからでも雇用関係を終了できるという考え方です。従業員は退職でき、雇用主も違法な理由でない限り、厳格な解雇理由を示さずに雇用を終了できる場合があります。

たとえば、企業買収後に部門が統合されることで人員整理が行われる場合だけでなく、企業の戦略方針が変わることによって企業内で必要とされる職務に変化が生じた場合にも、仮に目標を達成していたとしても解雇の対象となる場合があります。

このように、At-will employmentによって職務を基準に組織を組み替えやすいことが、解雇が起こりやすい理由の一つです。

LayoffとFiringでは雇用終了の理由が異なる

こうしたアメリカでの解雇を考える際に重要なポイントは、一言で「解雇」といってもLayoffとFiringでは意味合いが大きく異なるという点です。Layoffは業績悪化・組織再編・職務廃止など会社側の事情による解雇を指し、Firingは勤務成績や規則違反など個人側の事情による解雇を指すことが一般的です。

ただし、名称だけで失業保険などの扱いが決まるわけではありません。会社が記録する雇用終了の理由も確認しましょう。

At-will employmentでも違法な理由による解雇は認められない

雇用主がいつでも解雇できるというAt-will employmentの仕組みが存在するといっても、どのような理由でも解雇できるわけではありません。人種、宗教、性別、妊娠、出身国、40歳以上の年齢、障害などによる差別や、差別・賃金・安全上の問題を申告したことへの報復は違法となる可能性があります。契約や州法に反する解雇も問題になる場合があります。

大規模レイオフではWARN Actが適用される場合がある

また、アメリカではある日オフィスに行くと突然解雇を告げられるというように、事前の通告が必要ではないと思われるかもしれません。たしかに、個別の解雇すべてに事前の通知が必要なわけではありません。

ただし、WARN Act(労働者調整・再訓練予告法)の条件を満たす事業所閉鎖や大規模レイオフでは、一定の雇用主に原則60日前の書面通知が求められます。そのため、突然解雇を告げられた場合にも、WARN Actの対象ではないかを確認するようにしましょう。また、州独自のルールを定めている場合もあるので、勤務先の州のルールも確認しておきましょう。

日本の解雇規制との違い:解雇の受け止め方も異なる

日本では、解雇に客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められ、原則として30日前の予告または解雇予告手当も必要です。これに対してアメリカでは、多くの州でAt-will employmentが基本となり、個別の雇用終了について一律に同じ理由や予告期間を求める連邦ルールはありません。

比較項目アメリカ日本
雇用終了の基本多くの州でAt-will employmentが基本。違法な理由や契約違反などは除く客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が必要
事前通知個別解雇に一律の連邦通知期間はない。WARN Act、州法、契約を確認原則30日前の予告、または不足日数分の解雇予告手当
会社都合の人員削減職務廃止や組織再編としてLayoffが行われやすい解雇回避努力や人選の妥当性などが慎重に判断されやすい
セベランス連邦法上、一律の支払い義務はなく、会社制度や合意による退職金制度、就業規則、合意内容によって異なる

また、解雇が身近ではない分、深刻に受け止められやすい日本とは異なり、アメリカでは解雇が行われるのは比較的一般的です。そのため、転職の労働市場も流動的で、特に部門閉鎖や職務統合などによるレイオフは、転職時にも不利になるわけではありません。まずは会社が示す理由と条件を確認し、次の対応へ切り替えることが大切です。

解雇を通告されたときにやるべきこと

1.その場で署名せず、終了日と書類を確認する

解雇を通告されたらまずは以下の4点を必ず確認しましょう。

  • 最終勤務日
  • 正式な雇用終了日
  • 保険の終了日
  • 会社が記録する退職理由

最終勤務日と正式な雇用終了日は同じとは限りません。就労ビザを持っている方は、Grace Periodの起点にも関わるため、正式な雇用終了日を人事に確認することが重要です。また、退職理由は失業保険の申請や次の転職活動で確認される場合があります。

セベランス契約や退職合意書を提示された場合も、その場で署名せず、内容を持ち帰って確認しましょう。差別や報復、契約違反の可能性がある場合は、解雇通知だけでなく、評価記録や給与明細、関係者とのやり取りを整理しておきましょう。もちろん、権限のない機密資料を持ち出してはいけませんが、疑問がある場合には署名前に弁護士などの専門家へ相談しましょう。

2.セベランスパッケージの金額以外も確認する

Severance Package(セベランスパッケージ)は、主に会社都合の退職時に提示される補償条件です。日本では退職時に退職金が支払われることがありますが、アメリカでは退職時の補償がセベランスパッケージとして提示されることがあります。 ただし、セベランスパッケージは一律に支払われるものではなく、内容は会社が制度として用意している場合もあれば、解雇・退職時に個々の従業員との合意によって異なる場合もあります。そのため、提示された金額だけで判断せず、支払日や補償の範囲、退職後に受けられる支援まで会社側と確認しましょう

3.最終給与・PTO・401(k)・株式報酬を整理する

解雇を通知された際にやるべきことの3つ目は、退職後に受け取るお金と残る資産を一覧にすることです。解雇後は収入が一時的に止まる可能性があるため、いつ、いくら受け取れるのかを把握しておくことが生活資金の見通しにつながります。

Final Paycheck(最終給与)の支払時期や未消化PTO(有給休暇)の買い取りは、州法や会社方針によって異なります。また、ボーナス、401(k)の会社拠出分のVesting(権利確定)、RSUなどの失効日・行使期限も確認しましょう。

これらは退職日を境に扱いが変わることがあるため、後から気づいて損をしないよう、給与明細、401(k)口座、株式報酬の管理画面、雇用契約や会社規程を確認しておくことが大切です。

4.健康保険の空白期間を避ける

解雇を通知された際にやるべきことの4つ目は、健康保険の空白期間を避けることです。

アメリカでは医療費が高額になりやすく、無保険の期間に病気やけがをすると大きな自己負担につながる可能性があります。たとえば、ニューヨークでは虫垂炎で1日入院して手術を受けるだけでも、1万米ドル以上かかる例があります。

そのため、現在の健康保険がいつ終了するのかを会社に確認しましょう。

5.Unemployment Insuranceを早めに申請する

Layoffなど、自分に責任のない理由で失業した場合は、Unemployment Insurance(UI:失業保険)の対象になる可能性があります。要件や給付額、セベランスとの調整は州ごとに異なるため、退職理由と給与情報を準備し、働いていた州へ早めに申請しましょう。

就労ビザ保有者は在留資格と次の転職先を最優先で確認する

H-1Bなど一定の就労資格では最大60日のGrace Periodがある

H-1B、L-1、O-1、TNなど一定の就労資格では、雇用終了後も最大60日間のGrace Period(猶予期間)が認められる場合があります。この間に、新しい雇用主を探す、在留資格を変更する、または出国するなどの対応を進めます。 ただし、利用できるのは、雇用終了後60日とI-94に記載された滞在期限のうち短い方までです。Grace Periodは手続きのための猶予であり、その間に自由に働けることを意味しません

猶予期間はセベランスの支払い終了日ではなく雇用終了日から始まる

Grace Periodの起点を判断するときは、セベランスの支払い期間ではなく、会社との雇用関係が正式に終了した日を確認することが重要です。

たとえば、雇用が4月1日に終了し、セベランスが6月まで分割で支払われる場合でも、6月まで雇用関係が続くとは限りません。セベランスを受け取っていることだけを理由に、Grace Periodがまだ始まっていないと判断しないようにしましょう。

雇用終了日と最終勤務日を人事に確認する

解雇を通告されたら、最終勤務日と正式な雇用終了日を人事に確認しましょう。最終勤務日を基準にするとGrace Periodを実際より短く見積もる可能性があり、反対にセベランスの支払い終了日を基準にすると実際より長く見積もるおそれがあります。そのため、Grace Periodを考える際は、正式な雇用終了日を確認することが重要です。

あわせて、I-94で現在の滞在期限を確認します。Grace Periodとして利用できる期間は、雇用終了後60日とI-94の滞在期限のうち短い方までです。解雇通知、I-94、I-797承認通知を整理し、早めに移民法の専門家へ相談しましょう。

次の雇用主探しや在留資格変更などの選択肢を確認する

Grace Period中に検討すべき主な選択肢は、次の雇用主に就労資格の申請を進めてもらうこと、別の在留資格へ変更すること、またはアメリカから出国することです。つまり、アメリカに残って働き続けるのか、別の資格で滞在するのか、いったん出国するのかを、限られた期間内に判断する必要があります。 転職活動では、応募先企業がビザスポンサーに対応できるか、内定後いつ申請できるか、申請後いつから働き始められるかも確認しましょう。特にL-1は同じ企業グループ内の転勤を前提とするため、関係のない別会社へそのまま引き継げるとは限りません。必要な手続きは在留資格ごとに異なるため、自己判断だけで進めず、移民法の専門家にも早めに相談することが大切です。

とめ:解雇後はお金・保険・ビザを順番に確認しよう

アメリカで解雇が起こりやすい背景には、At-will employmentと職務単位の雇用慣行があります。ただし、差別、報復、契約違反などによる解雇は認められず、大規模レイオフではWARN Actが適用される場合もあります。

解雇を通告されたら、雇用終了日、セベランス、最終給与、PTO、401(k)、健康保険、失業保険を順番に確認しましょう。就労資格で働く方は、在留期限と次の雇用主による申請を最優先で確認します。

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よくある質問(FAQ)

Q
アメリカでは理由を示されずに解雇されることがありますか?
A

多くの州ではAt-will employmentが基本であり、契約などに別の定めがなければ、雇用主が詳細な理由を示さずに雇用を終了できる場合があります。ただし、差別、報復、契約違反など、違法な理由による解雇は認められません。

Q
レイオフされたら失業保険を受給できますか?
A

自分に責任のない理由で失業し、州が定める就労・賃金要件などを満たせば、受給できる可能性があります。制度やセベランスとの調整は州ごとに異なるため、働いていた州へ早めに申請してください。

Q
セベランスパッケージは必ずもらえますか?
A

連邦法上、すべての解雇にセベランスを支払う一般的な義務はありません。雇用契約、会社制度、個別の合意によって異なります。提示された場合は、金額だけでなく健康保険、権利放棄、株式報酬、ビザ支援も確認しましょう。

Q
H-1Bで解雇されたら60日間は必ずアメリカに滞在できますか?
A

必ず60日間が保証されるわけではありません。利用できる期間は、雇用終了後60日とI-94の滞在期限のうち短い方までです。雇用終了日を確認し、早めに移民法の専門家へ相談しましょう。


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