アメリカで働く日本人のなかには、「日本と同じように真面目に働いているのに、思ったように評価されない」と感じる方もいるでしょう。原因は努力不足だけではなく、仕事の範囲、評価、キャリア形成の前提が日本と異なることにもあります。
アメリカで適切に評価されるには、現地の仕組みを理解し、日本で身につけた働き方を調整することが必要です。この記事では、日米の違い、在米日本人が陥りやすい3つのズレ、具体的な対処法を解説します。
アメリカの働き方を支える3つの仕組み
アメリカの働き方を理解するうえで押さえたい仕組みは以下の3つです。
1.ジョブ型雇用
2.成果を重視する評価
3.At-will employment(随意雇用)
まずは3つの仕組みについて解説をしていきましょう。
ジョブ型雇用で担当業務と責任範囲を明確にする
ジョブ型雇用とは、特定の職務を担う人材を採用する方式を指します。そのため、ジョブ型雇用ではJob Description(職務記述書)と呼ばれる、主な業務・責任・必要な知識やスキルなどが示された文書が提示されることが多いです。採用された人の評価基準もこのJob Descriptionに書かれた担当職務がベースとなります。
別の言い方をすれば、このJob Descriptionに書かれていない担当職務外の仕事で貢献しても、本来の担当業務で成果を出せなければ高い評価を得にくくなる点には注意が必要です。
成果主義で職務での成果が報酬・評価に反映されやすい
アメリカの働き方を支える2つ目の仕組みは、成果主義です。
アメリカでは成果主義を導入している企業が一般的であり、働いた時間や努力だけでなく、職務目標に対してどのような結果を出したかが評価材料になります。
売上や利益だけでなく、時間短縮やコスト削減、ミスの減少、顧客満足度などを明確な数値で示すことがJob Descriptionに書かれた職務において成果を出せたとアピールする上で重要となります。
At-will employmentで雇用関係を柔軟に終了できる
アメリカの働き方を支える3つ目の仕組みは、At-will employmentです。アメリカでは原則として(モンタナ州を除くすべての州で)、雇用契約などで別の定めがない限り、At-will employmentが雇用関係の基本です。雇用主は、従業員の重大な不祥事だけでなく、業績不振、組織再編、ポジションの廃止などを理由に雇用を終了することがあります。従業員側も、別の仕事へ移るために退職できます。
もちろん、At-will employmentだからといって雇用主がどんな理由でもすぐに従業員を解雇できるわけではありません。差別や権利行使への報復など、法律に反する理由による解雇までは認められてはいません。
日本のメンバーシップ型雇用との違い
日米の働き方の違いを理解せずに行動すると、自分では会社に貢献したつもりでも、会社からは期待された成果を出していないと評価されることがあります。そのため、日米の働き方の違いを理解することは重要です。
ジョブ型雇用とメンバーシップ型雇用の違い
第1の違いは、職務の任せ方の違いです。
アメリカに多いジョブ型雇用では、特定の職務に対して人を採用します。これに対し、日本に多いメンバーシップ型雇用では、会社の一員として採用し、配属や異動によって担当する仕事を決めます。
そのため、日本では担当範囲を超えた貢献も評価されやすいのに対し、アメリカでは、まず担当職務で成果を出したかが重視されます。
職務目標を基準とする評価と、能力・プロセス・中長期的貢献も含む評価の違い
日本とアメリカの第2の違いは、評価と処遇です。
アメリカでは、成果主義のもと、設定された職務目標に対する結果が評価の中心になりやすい傾向があります。
これに対し、日本の従来型企業では、短期的な結果だけでなく、能力、仕事への姿勢、プロセス、周囲との協力、中長期的な成長も評価に含める傾向があります。
そのため、仕事への取り組み方や周囲との協力の仕方が日本では高い評価を受けていたとしても、アメリカで本来の職務において成果を出せていなければ、高い評価につながらない可能性があります。
At-will employmentと長期雇用を前提としたキャリア形成の違い
日本とアメリカの第3の違いは、雇用とキャリア形成の違いです。アメリカで多いAt-will employmentを前提とする職場では、雇用の継続が当然に保証されているわけではないため、従業員自身が次の職務や勤務先を選びながらキャリアを形成します。
これに対し、日本の従来型企業では、会社が配置転換や研修を通じて従業員の経験を広げ、その会社内でキャリアを形成していくという傾向が強いといえます。
在米日本人が陥りがちな3つのズレ

ここまで説明した日米の働き方の違いは、実際の職場で自己評価と会社の評価のズレとなって現れます。特に注意したいのが、日本では美徳とされやすい謙遜や察してもらう姿勢、頼まれた仕事を断らない姿勢です。
「黙々と頑張れば見てもらえる」という思い込み
1つ目のズレは、成果を出していれば上司が自然に気づいてくれると考えることです。
日本の職場では、長期的な勤務や日常的な関わりを通じて、上司が部下の仕事ぶりを把握する場合があります。そのため、自分から成果を強く伝えることに抵抗を感じる人もいるでしょう。
しかし、アメリカの職場では、上司が複数の部下やプロジェクトを管理しており、個々の改善活動まで把握しているとは限りません。
たとえば経理担当者が月次締めの手順を改善し、作業期間を5日から3日に短縮したとしても、その経緯を説明しなければ、上司には「今月も期限内に処理した」としか見えない可能性があります。
成果を出しただけで評価されると考えず、何を変え、どのような効果が生じたのかを具体的に伝えることが重要です。
自分の希望を伝えず、昇給・昇進・プロジェクトの機会を逃す
2つ目のズレは、会社や上司が自分に合った仕事を考え、適切な時期に機会を与えてくれると期待することです。
日本の従来型企業では、会社主導の配置転換や人材育成を通じて、本人が希望を強く主張しなくても新しい役割を与えられることがあります。
しかし、アメリカでは、希望する役割やキャリアの方向を自分から示さなければ、上司は本人の意欲を判断できません。たとえばチームリーダーへの昇進を希望していても、何も伝えなければ、上司は本人が現在の役割を続けたいと受け取る可能性があります。その結果、以前から希望を伝え、必要な経験について相談していた別の従業員にプロジェクトが任されることもあります。
会社が将来の役割を決めてくれるのを待つのではなく、目指すポジションと、そのために積みたい経験を自分から伝えることが重要です。
職務範囲外の業務を抱え込み、本来求められる成果がおろそかになる
3つ目のズレは、頼まれた仕事を幅広く引き受けること自体が評価されると考えることです。
たとえば営業担当者が、通訳、資料修正、出張者のサポート、社内イベントの調整まで引き受けたとします。その結果、周囲から感謝されたものの、新規顧客への提案に使う時間が減り、営業目標を達成できなかったとしましょう。
日本のメンバーシップ型雇用を採用する企業では、営業成績だけでなく、担当範囲を超えて組織を支えたことも貢献として評価される可能性があります。しかし、アメリカで多く見られるジョブ型雇用では、「周囲には協力的だが、営業担当者として求められた成果が不足している」と評価される可能性があります。
このように、本人は幅広い仕事を引き受けて会社全体に貢献したと考えていても、会社はJob Descriptionに示された職務と目標を中心に評価します。そのため、職務外での貢献が、本来の職務で目標を達成できなかったことを埋め合わせるとは限りません。
アメリカで評価されるためのマインドセット転換

ズレを減らすには、「察してもらう」「会社に任せる」という姿勢から、自分の職務、成果、希望を言葉にして共有する姿勢へ切り替える必要があります。
成果を言語化して伝える
成果を上司に伝えるときは、「頑張った」「忙しかった」といった主観的な説明ではなく、何を行い、どのような変化を生み出したのかを、数字や具体的な事実で示しましょう。
米国人事管理庁(Office of Personnel Management:OPM)は、連邦政府職員の評価基準について、客観的で測定可能かつ現実的であり、明確に記録されていることが望ましいとしています。これは民間企業すべてに適用される統一基準ではありませんが、自分の成果を整理する際にも参考になる考え方です。
たとえば、「顧客対応を改善しました」だけでは、どの程度の成果を上げたのかが分かりません。「問い合わせの振り分け方法を変更し、初回回答までの平均時間を24時間から8時間に短縮した」と説明し、自分が何をしてその結果どうなったのかを明確に伝えましょう。
また、成果は定期的に「どのような課題があったか」「自分が何を行ったか」「結果がどう変わったか」「会社や顧客にどのような効果があったか」の順に記録しましょう。1on1やPerformance Review(人事評価面談)において、その記録をもとに具体的な事実を伝えることが重要です。
昇給・昇進は「待つ」のではなく自分から相談する
昇給や昇進を希望する場合は、希望だけでなく必要な条件を確認しましょう。
「次の役職に進むために必要な成果とスキルを確認したいです。現在の実績で不足している点は何でしょうか」と相談すれば、昇進意欲を伝えられるだけでなく次の評価までに取り組むべきことが明確になります。
Job Descriptionを基準に自分の職務と成果を整理する
Job Descriptionから主要な責任を3~5項目に絞り、それぞれの目標と実績を整理しましょう。
追加業務を依頼された場合は、「対応するなら、現在のどの業務の優先順位を下げるべきですか」「この仕事は今期の評価対象に含まれますか」などのように確認するとよいでしょう。
追加業務をその場で断ると、協力的ではないという印象を与える可能性があります。しかし、何も確認せずに引き受ければ、本来の職務に使う時間が減り、目標を達成できなくなるかもしれません。
そのため、「この業務を優先する場合、現在進めている提案書の作成期限を変更してもよいでしょうか」「現在の営業目標と、今回のサポート業務のどちらを優先すべきですか」と上司に確認しましょう。
上司と優先順位を事前に共有しておけば、追加業務によって本来の職務の成果が下がった場合でも、その事情を評価時に説明しやすくなります。また、上司の判断として業務の優先順位を変更したことが明確になるため、目標未達の責任を自分だけが負うリスクも抑えられます。
市場価値を定期的に確認し、キャリア相談を活用する
アメリカでは終身雇用が前提ではなく、At-will employmentのもとで、組織再編やポジションの廃止によって雇用が終了する可能性があります。また、よりよい職務や待遇を求めて転職することも一般的です。
そのため、転職が必要になってから動くのではなく、普段から同じ職種の求人を確認し、市場で求められるスキルや給与水準を把握しておきましょう。
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まとめ
アメリカでは、ジョブ型雇用、成果を重視する評価、At-will employmentが働き方に影響しています。
日本の感覚のまま、黙って努力する、希望を察してもらう、頼まれた仕事をすべて引き受けるという行動を続けると、自己評価と会社の評価にズレが生じる可能性があります。 Job Descriptionを基準に職務を整理し、成果と希望を言葉で伝え、市場価値を定期的に確認しましょう。日本で身につけた勤勉さや協調性に、成果の言語化と主体的なキャリア形成を加えることが、アメリカで適切に評価されるためのポイントです。
よくある質問(FAQ)
- Qアメリカの働き方の特徴は何ですか?
- A
ジョブ型雇用、成果を重視する評価、At-will employmentが主な特徴です。ただし、実際の運用は業界、職種、会社によって異なります。
- Qアメリカ人は残業をしないのですか?
- A
一概にはいえません。残業の多さは業界や職種によって異なり、勤務時間だけでなく、求められた成果を達成しているかが重視される職場もあります。
- QAt-will employmentとは何ですか?
- A
雇用主と従業員の双方が、原則として雇用関係を終了できるという考え方です。ただし、差別や報復など法律に反する理由による解雇は認められません。
- Q日本人がアメリカで働くと苦労する点は何ですか?
- A
成果や希望を自分から伝えず、上司が察してくれると考えやすい点です。また、職務外の仕事を抱え込み、本来の成果が不足することにも注意が必要です。
