米国で日本語教育が先細りの危機を迎えている。日本から若手講師らを派遣していた財団は応募者数が減少。
米国にある教育機関も3年間で14%減り、教員の高齢化も進む。知日派を増やす草の根からの交流はこれまで両国関係の円滑化に寄与してきた。
日米両政府は日本人教員の移住後押しなどを通じてテコ入れを急ぐ。
「この映画は怖いと思いますか」「ちょっと怖いと思います」。米ボストン近郊にある名門女子大のウェルズリー大で2月、講師の堤菜央さん(27)が学生8人に日本語の会話を教えていた。
堤さんはALLEX(アレックス)財団(マサチューセッツ州)の奨学生として派遣され、2023年9月に教え始めた。福岡県出身で大卒後に就職したが「日本を外国人に英語で紹介する仕事に就きたい」という夢を追い、同財団の奨学生に応募した。
任期は1年で、日本語を教える代わりに寮費や食費、滞在費が支給され、同大の授業も無償で聴講できる。
「高校時代に米国に留学したことはあったが学ぶことは多い。来てよかった」と話す。
現在はハーバード大で日本語講師を務める弘実紗季さん(28)は山口県立大を卒業後、同財団の奨学生として日本語を教えつつ、オレゴン州の州立大で日本語教育の修士号を22年に取得した。
「奨学生となり400万円くらいは節約できた。学位を取り、人生の選択肢が広がった」と笑顔をみせる。
同財団は学位取得を目的にしない任期1年と、修士号などの取得を目指す任期2年という2種類の派遣プログラムを用意している。米大学の学費が高騰するなか、日本語を教える代わりに授業料や滞在費、食費が免除される利点は大きい。
一定の英語力に加え、日本語教育のコースを履修する必要もあるが、修士号の取得費用を大幅に圧縮できるという。
03年に活動を始めて以来、1000人以上の日本人講師を全米の200校以上の大学に派遣してきたが、現在の応募者は年100人程度と約20年前の3分の1ほどに減っている。
日本国内の就職環境が良好なことや、円安による米国滞在費の増加、学位取得を目的に留学する人が以前ほど多くないことなどが影響している可能性がある。
減っているのは同財団の応募者数だけではない。国際交流基金によると、米国で日本語を教える教育機関は21年度で1241校で、前回調査の18年度から14%減った。
中国語や韓国語との競合などが背景にあるとみられる。
教員の高齢化が進んでいることも先細りの懸念材料だ。米国で日本語を教える教員らでつくる中部大西洋岸日本語教師会が23年10月に実施した調査では、回答した305人のうち半数が51歳以上だった。
同会は日本人の若手教師らの就労ビザ取得手続きの緩和や、日本語教師養成プログラムの増加などが必要としている。
文部科学省と米国務省はこうした声を踏まえて23年、米国が重要と位置づける言語の中でも日本語を優先的に扱うことなどを確認。
日本語教育の拡充に向け①米国移住を希望する日本人教員への情報提供②アレックス財団など民間を含む教員派遣プログラムの支援――などに取り組むことで合意した。
両政府はまず、米国で教えるために必要な条件を記したマップを秋にも公開する。
同財団のトム・メイソン会長は「草の根レベルで日米が互いに理解を深めていかなければ太平洋地域の安定が揺らぐ。日本語教育の重要性は増している」と訴えている。
Original Article from 日本経済新聞 (click here)