ニュースレター

2012-12-01
Newsletter 2012年12月号 オバマケアと在米日系企業
今回の米国大統領選挙でオバマ大統領が再選した今、ひとつ確かに言えることは、Patient Protection and Affordable Care Act(患者の保護及び購入可能な医療の提供に関する法律。以下「PPACA」)通称「オバマケア」が、引き続き米国の国法であり続けるということだ。2014年の始めにこの法律の殆どの重要条項が施行されることを考えると、今こそPPACAが自分の会社にもたらす影響を考え始めるべきである。

米国で事業を展開する企業のすべては、PPACAが自社の福利厚生に及ぼすかもしれない影響を憂慮している。ADPによると、中企業の34%はPPACAに従うコンプライアンスの複雑性を心配しているという。またDeloitteの調査によると、10企業のうち1企業は、すべての条項が施行された際には社員への医療保険の提供を止める予定であると答えているという。しかしながら、2014年以降の福利厚生に関する在米日系企業への懸念は、さらに輪をかけて複雑である。

米国で事業を行う日系企業は今まで、 多くの競合会社に比べて、より充実した福利厚生を従業員に提供してきた。多くの米国企業は福利厚生においてコスト削減戦略の最前線を目指すのに対し、日系企業は、例えコストが上がっても従来の福利厚生を保ちながらやりくりしていく傾向がある。そのような日系企業にとって、魅力的な福利厚生へのコミットメントは長い間効果的であった。充実した医療保険は、生活の安定性を重視する家庭持ちの社員には特に魅力的である。従来の日本の人事管理慣習は終身雇用という土台の基に成り立っていたため、日本人のエグゼクティブのほとんどは、会社への忠誠心を表す社員を求めてきた。

また、充実した福利厚生を提供することで、日系企業は比較的低い賃金制度を補ってきたとも言える。長期安定型の雇用モデルを持つ在米日系企業は、米国企業に比べて最初の給与が低く、時間と共に少しずつ上がっていく傾向がある。これまで何年もの間、競合会社よりも条件の良い医療保険や福祉給付金を提供することが、employment value proposition (「社員にとって、その企業で働く価値」。以下EVP)に肯定的な定義を与えるための方法の一つであった。しかしながら、PPACAによって福利厚生計画の設計が制限され、順守の義務と罰金が増加したことによって、日系企業のEVPにおける医療保険の将来はどうなるのであろうか。 2014年度の福利厚生を計画する際、心に留めておくべき幾つかの選択について下記にまとめてみた。

これは、競合会社との差別化を進めるための機会である。PPACAの登場によって、多くの組織は福利厚生に医療保険を含むことを止めようかと検討しているため、従来的な福利厚生を保つことにコミットした企業は、現在及び将来の社員により好意的な印象を与えるかもしれない。

これは、医療保険の提供を中止するチャンスでもある。PPACAは、規定限度を満たした福利厚生を社員に提供しない組織に罰金を科すが、多くの場合、罰金のコストの方が医療保険を提供するコストよりも低くなると考えられる。さらに、新しい法律の基では、雇用主を通した民間保険に加入できない者は、各州の医療保険取引所を通した公的保険に加入することができるようになる。この選択はコスト面では一番魅力的かも知れないが、州単位の医療保険取引所がどのくらい上手く機能するか分からないし、公的医療保険に社員が加入することが簡単かどうかも分からない。また、医療保険を提供する会社が、人材確保において優位に立つ可能性が高くなることも忘れてはならない。

これは、社員を引き付け確保するための方法を再評価するための機会である。在米日系企業がEVP の再検討を行っているそのときに、PPACAが登場した。最初の給与が比較的低い代わりに福利厚生が充実していることは、安定した労働力の確保に役立つかもしれない。しかし多くの企業は変化しつつあるニーズに直面している。日本の将来的な経済成長への期待が低い今、日系企業は海外での事業や活躍に今まで以上に比重を置くことを迫られている。米国での業績を強化するために、日系企業は従来の社員とは違ったタイプの社員を確保する必要があるかもしれない。その場合、報酬や福利厚生を含むEVPの徹底的な再評価が必要となる。もちろん、充実した福利厚生は魅力的なパッケージの一つであることに変わりはないが、それは今まで日系企業が提供してきたものとは異なる性質を持つかもしれない。例えば、医療保険商品よりも業績に基づいた長期的報酬を重視するかもしれない。