ニュースレター

2014-09-01
Newsletter 2014年9月号 「Employment at-will」と「差別禁止」
今回は、米国における人事労務管理の基本に立ち返って頂く事を目的に、雇用上の決定に大きな影響を及ぼす基本中の基本である「Employment at-will」と「差別禁止」について触れます。

((Employment at-will))
米国でマネジメントをしていれば聞いたことがないという方はいないはずです。 これは米国において雇用関係を成り立たせる際の一つの考え方であり、雇用関係が雇用者と被雇用者の任意(自由意志)に基づいて成立しているとするものです。 日本からいらしたマネジメントの方々と雇用についてお話をすると「(雇用)契約」という言葉を多く聞きますが、米国のおける雇用関係は必ずしも雇用契約(Employment Contract/Agreement)に基づいて成されるわけではありません。(もちろん、雇用期間や雇用期間中の取り決め、雇用期間の途中終了に関する事項等を明確に定める「雇用契約」というものもありますが。)

そこでまずはじめてに出てくる疑問が、「契約書なくして雇用関係をどうやって成立・証明するのか?」という点ですが、これはオファー・レターと呼ばれる書類で採用の決定や雇用開始日、雇用時の給与額等を記載して採用候補者に渡し、採用候補者が受諾の署名をすることで雇用関係を成立させて証明するのです。 そして雇用期間中の取り決め(規則)については、従業員ハンドブックに従うということになります。

また、Employment at-willは、(いくつかの大きな例外はあるものの)基本的には「いつでも、理由の有無に関わらず、事前の通知なしに、雇用者側からも被雇用者側からも雇用関係を解除できる」と定義されています。 つまり、この定義にしたがえば、従業員が「もう嫌なので辞めます!明日から会社に来ません!」と言えたり、会社側が「君はクビだ!明日から会社に来なくていいから!」と言えてしまいます。 そこで特に会社側を代表するマネジメントの方々から次に出てくる疑問が、「本当に“理由の有無に関わらず”会社側が従業員を解雇できるのだろうか?」「それではなぜ米国では解雇に関連する訴訟が多くあるのか?」という点です。

((差別禁止))
“理由の有無に関わらず”、例えばマネジメントの好き嫌いだけで従業員を解雇することが法律以前の問題であることは言うまでもありませんが、米国には、雇用上の決定にあたって従業員に対して差別的な取り扱いを禁止する様々な法律が存在します(この“雇用上の決定”にはもちろん”解雇“も含まれます)。 ここで混乱してしまうのが、前記のEmployment at-willと差別禁止法の関係です。

1964年に、連邦法で保護されるグループ(つまりそれらに基づいて差別してはいけないとされるグループ)として人種、肌の色、宗教、国籍、性別が公民権法第7編の中で明記され、その後、障害の有無、市民権の有無、軍役経験の有無、年齢等にまで拡大してきています。 つまり逆に言えば、それまでは雇用上の決定において従業員に対する差別的な取り扱いが公然と行なわれていたわけであり、Employment at-willよりも後になって様々な差別禁止法が成立してきているわけです。

来る9月18日(木)にアクタスコンサルティング社主催の人事セミナー(タイトル(予定):『新駐在員・新任管理職者向け 米国人事労務管理の基本』)で講演させて頂く予定です。 それぞれの差別禁止法についてはそのセミナーの中でも少し触れようと思いますが、この差別禁止法があるからこそ、“理由の有無に関わらず”従業員を解雇することは会社にとっては危険な行為であり、注意を要することなのです。

三ツ木良太
HRM Partners, Inc. パートナー
rmitsugi@hrm-partners.com