2020-03-24
全世界のメディアは新型コロナウィルス(COVID-19)報道一色で、ここ米国も例外ではありません。各地域での感染者数や移動制限については毎日のニュースで流れてきますが、この状況下で企業として気を付けるべき点は何か?という情報についてはメディアで取り上げられることはあまりありません。そこで今回は、異常事態ともいうべき状況の中で、雇用主・管理職としてどのような対応を行うべきかという点を中心に、米国政府機関や保健局などからリリースされてる情報を基に、ご紹介させて頂きたいと思います。
各地の感染状況やイベント・移動制限などの情報は地域によって異なり、メディアでも報道されている通りですので、今回は割愛させて頂きます。その他弊社ニュースレターで取り扱うことのできなかった点につきまして、ご不明な点やご質問がございましたら、各営業担当までお気軽にお問合せ下さい。
NY: 成瀬(hnaruse@actus-usa.com)
Mid-West & South: 山田(ayamada@actus-usa.com)
West Coast & Other Region: 菱沼(thishinuma@actus-usa.com)
※感染予防の徹底
まずは基本ですが、感染予防の徹底がCDC (Centers of Disease Control and Prevention) = アメリカ合衆国疾病対策センターから強く推奨されております。基本的な感染予防ではありますが、握手以外の方法で挨拶やコミュニケーションを図る、定期的な手洗い(頻繁に石鹸と流水で20秒以上手を洗う、またはアルコール度60%以上のサニタイザーを利用する)、うがいを行う、顔に触れない、ティッシュやサニタイザーなどの備品を準備する、咳をする時は手ではなくティッシュで口を覆い(咳やくしゃみが出る場合は、袖を使うように、とアメリカではよく言われますが、これは日本のようにハンカチやティッシュを持ち歩く習慣がないアメリカの方が、手で口や鼻を覆うことによって菌が手に付着し、その手でモノを触ることで菌が付着し、他人への感染が広がることを防ぐためだったのだと、今回のことで理解しました。)使ったティッシュはすぐに捨てる、ドアノブ・机・パソコンなど頻繁に触れる場所の消毒を行う、Web会議の実施検討、大規模イベントの延期や中止を行う、出張時の感染リスクの検証、タクシーなどの密閉空間での移動が必要な際には、できる限り窓を開けて、換気を行う、そして体調不良時には自宅に留まることなどが挙げられています。CDCでは手洗いなどの感染予防対策をポスターにしています。ポスターを従業員が良く目にする場所に掲示し、周知を図ることも大事な役割です。
※社内規定の確認
休暇や病欠ポリシーは柔軟且つ法令を遵守する内容になっていますか?また、ご準備が整っている場合にも従業員が理解できているか否かを確認しておくことも重要です。
※従業員の体調不調時の対応
自社従業員はもちろんのこと、派遣社員、出向社員、インターンなど職場で常時勤務する個人に対しては、体調不調時には「欠して無理をして出勤しない、早退をすること」が感染拡大防止には重要な旨を説明し、やむを得ない欠勤についてはその旨をできるだけ早めに雇用主に連絡をすることを条件に処罰を伴わない内容を心掛けるが大事です。従業員が業務に復帰する際には、法的に医師や医療機関からの、欠勤が必要であったことを記載した書類の提出を従業員に求めることが法的に可能な場合もあります。今回のコロナウィルス感染拡大のように大統領が国家の非常事態を宣言し、州が州の非常事態宣言を行うなど、感染症の拡大が人命を脅かす事態になれば、職場における従業員の安全を確保する義務のある雇用主としてその感染症に関してであれば、医師からの職場復帰承認証明証(fit to work assessment letter)を提出させることもできます。ただし、現在のようにパンデミック発生時は医療機関が多忙を極めて証明証発行どころではない状況も考えられますので、診察を証明するスタンプやE-mailなど他の方法での証明をすることも許容するなど、臨機応変に対応することも重要です。
※従業員や従業員の家族に感染者が出た場合
従業員または従業員の家族に感染者が出た場合には、CDCのガイダンスに沿って適宜対応を行うことが必要で、雇用主は直ちに職場の同僚に感染の可能性を伝えるべきです。一方で、Americans with Disabilities(ADA)*の定めにより従業員の病状を機密のメディカルレコードとして保管し、守秘義務を保持する必要があります。感染の可能性を伝えるべきだが、守秘義務は保持する必要があるという矛盾した状況になってしまいますので、どちらを優先するのか?という疑問が起こることは当然かと思います。EEOC(Equal Employment Opportunity Commission)**はこの点について見解を述べており、従業員の病状を守秘義務として扱う必要はあるものの、CDCによるガイドラインを妨げることになる場合はその限りではないと発表しています。感染者が出た場合の対応については下記CDCのウェブサイトを、EEOCの見解については下記EEOCのウェブサイトをご覧下さい。
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/php/risk-assessment.html
https://www.eeoc.gov/facts/pandemic_flu.html
*ADA: 1990年に制定された連邦法で障害による差別を禁止する。身体や精神の障害を理由とする差別的扱いを禁じている。2009年から障害者の定義を拡大した改正法が施行されている。
**EEOC: 米政府内の独立機関。人種、宗教、性別などの様々な雇用差別を防止する為に1965年に設置されている。
※異常事態であることの理解と柔軟な対応
学校が休校になる、外出禁止令が出されるなど米国内は異常事態になっています。雇用主は従業員が自宅勤務をしたり、欠席する可能性が平常時以上にあるという状況を理解し、ハンドブックや非常事の対応についてのポリシーを設けておくことも重要です。止むを得ない海外出張があり、万が一、国外で感染してしまった場合はどのような対応を行うべきかという点についても社内で一貫した対応策の準備をしておくことも推奨されています。
※雇用主による従業員検温について
雇用主が従業員の体温を測定する行為はMedical Examinationと見なされ、ADAによって従業員がアサインされた業務に関連のない医療検査が禁止されているため、通常は行うべきではありませんが、今回はCDCや地方・州の保健局が予防を強く呼び掛ける程の緊急事態です。EEOCウェブサイト上の質疑応答部分でEmployers may measure employees’ body temperatureと回答しています。但し、雇用主は一部の方は発熱しないことも理解しておく必要があります。
※従業員に対しての自宅待機指示について
従業員が新型コロナウィルスの症状を持っていた場合には雇用主が従業員に自宅に留まることを要求することができます。これはCDCが推奨していることなので、前述しました通り、ADAがこの推奨を妨げることはできません。
※採用予定者への対応について
雇用主は採用予定者に対し、Conditional Job Offerを提示した後に、新型コロナウィルスの症状がないかチェックすることができます。但し、検査を実施する場合は同じ職種で入社するすべての候補者に対して行う必要があります。候補者に新型コロナウィルスの症状がみられる場合には、入社時期を遅らせることもできます。CDCのガイダンスでは症状が見られる方は職場で勤務を避けるべきとされています。また、同ガイダンスにより雇用主が従業員をすぐに必要としており、候補者に症状が見られる場合にはEmployer may withdraw job offerとしています。
※エグゼンプト従業員への給与支払いについて
エグゼンプト従業員については、ほとんどの場合、満額の給与支払いが必要となります。エグゼンプト従業員を早めに帰宅させた場合にも、1日分の給与支払いがなされるべきであることはもちろん、別のある週に5日間勤務する予定が2日間の勤務になってしまった場合であっても、満額の週給が支払われます。ただし、例外もあります。例えば、まる1週間会社が休業し、エグゼンプト従業員が当該の1週間、全く仕事を行わない場合はエグゼンプト従業員に対して給与を支払う必要はありません。また、会社は通常営業している状況で、エグゼンプト従業員が個人的な理由で休みを取得する場合も給与支払いの義務はありません。
※ノンエグゼプト従業員への給与支払いについて
ノンエグゼンプト社員の給与支払いについては合計実働時間 (hours worked)に対しての支払いになる為、就業時間が短くなったり、会社がクローズになった場合(かつReporting time pay***や団体交渉などによる特別な契約がない場合は)給与の支払いは法律上は必要ありません。Report但し、多くの雇用主が非常時に従業員をサポートするために、また、従業員が感染の疑いを持った場合に積極的に欠勤することを促す目的で給与の補填を行っているのが実状です。
*** Reporting time pay: 別名Show-up time。適用される州とされない州が存在する。雇用主がノンエグゼンプト従業員に対して、休業などの案内を適切に行わなかったことにより、従業員が出勤した場合に、遂行できる業務がなかったり、帰宅を促され勤務が発生しない場合にも、給与の一部を支払うことが雇用主に課せられる。
※Job Description外の業務内容について
このような状況下ですので、Job Description外の仕事を従業員にお願いしたいことも出てくるかと思います。緊急時であっても、Job Description以外の業務を従業員に強制することはできませんので、今後の為にも従業員と緊急時にお願いする可能性のある職務内容について協議をしておくことも重要です。
※在宅勤務について
感染防止の観点から従業員に在宅勤務を求めることもできますし、求めるべきだと思います。ですが、在宅勤務の可否や勤務時間の調整などを職務・業務に関係のあること以外の理由で決めることのないように注意ください。Reasonable Accommodation****としての在宅勤務は例外です。
****Reasonable accommodation: ADAの中に規定されており、合理的配慮などと訳される。職場の物理的な環境を障害者に使いやすくしたり、規則・基準・時間を働きやすい内容に変えるなど働きやすい環境を整えること。
※在宅勤務時の給与支給について
Reasonable accommodationを理由に在宅勤務になった従業員はもちろんのこと、今回の新型コロナ対策で在宅勤務になった一般の従業員についても、基本的には出社していた際と同様の時給、年俸の支払いが必要です。前述しましたが、在宅勤務になった結果、ノンエグゼンプト従業員の勤務時間が少なくなった場合については合計実働時間に対しての支払いのみで問題ありません。1週間の労働時間が40時間を超える場合には会社での勤務か在宅勤務かを問わず、40時間を超えた就労時間に対し1.5倍のオーバータイムレートを適用して賃金を支給しなければなりません(カリフォルニア州は1日8時間以上の勤務でオーバータイムレートが適用となるなど、オーバータイムに関するルールが他州とは異なるため、注意が必要です。)
※OSHAへの報告義務
DOL(Department of Labor)=連邦労働局管轄のOSHA(Occupational Safety and Health Administration (OSHA)=米国労働安全衛生局では、特に在宅勤務の規制を設けておりませんが、2000年の発表によると、同局がホームオフィスの調査を行ったり、ホームオフィスの不備を雇用主の責任としたり、雇用主が従業員のホームオフィスをチェックすることを要求しておりません。もし、従業員が在宅勤務時にOSHAにレポートをした場合には、OSHAが雇用主に対して正式に苦情を伝える可能性はありますが、雇用主、従業員双方に対してのフォローアップは行いません。OSHAへの報告義務は平常時と同様です。
平常時の報告義務(OSHAウェブサイトより)
All employers are required to notify OSHA when an employee is killed on the job or suffers a work-related hospitalization, amputation, or loss of an eye.
A fatality must be reported within 8 hours.
An in-patient hospitalization, amputation, or eye loss must be reported.
新型コロナウィルス問題は収束の兆しを全く見せておらず、特に雇用主・管理職の皆様におかれましては、今後も感染防止・拡散の観点から様々な異例対応が求められることとなると予想されます。上述させて頂いた内容は本ニュースレター執筆時点(2020年3月23日)の内容で、状況によってルールに変更が加わる可能性も十分にございます。各政府機関からの情報収集をお勧めしますと共にご不明な点やわからない内容などございましたら、弊社営業担当までご遠慮なくお問合せ下さい。経済状況の行方も不透明な状態ですが、まずは皆様のご健康が最優先です。時節柄、くれぐれもご自愛下さい。
Akihiro Yamada(山田明宏), MBA, SHRM-SCP
Midwest / South Regional Sales Manager
Actus Consulting Group, Inc.