2019-07-24
「雇用平等委員会(EEOC)」
米国で人事に携わる方であれば、一度は耳にされたことのある言葉ではないでしょうか?米国で人事業務を行う上で、押さえておくべき人事関連の法律や機関は数あれど、最も大事な機関の一つと申し上げても過言ではありません。EEOCが管轄する法律の範囲、影響力は広がりを見せ続け、特に差別・ハラスメントへの訴訟が増え続ける現代では、無視することのできないものです。EEOCで管轄されている法律の遵守を怠ることが、企業への社会的・経済的損失をもたらすことはこれまでの判例からも明らかです。今回はEEOCの成り立ちについて社会的な背景を中心に解説させて頂きます。
EEOCとは?
EEOCとはEqual Employment Opportunity Commissionの略称です。日本語では雇用平等委員会または雇用機会均等委員会の様に訳されます。その名の通り、米国での平等な雇用を推進する組織です。EEOCという名称自体を法律と理解されて来た方もいらっしゃるかもしれませんが、法律ではありません。EEOCは雇用における差別やハラスメントを禁じる法律であるTitle VII of the Civil Rights Act of 1964(1964年公民権法第7編、通称「タイトルセブン」)をはじめとする雇用差別禁止連邦法の管轄を行う米国連邦政府の独立機関で、「タイトルセブン」制定翌年の1965年に設立されました。差別禁止法で雇用等における差別から保護を受ける属性をProtected classといいますが、Race(人種)、Color(肌の色)、National Origin(出身国 - 祖先の出身国も含む)、Religion(宗教)、Sex(性別)を理由に雇用の判断を行うことを禁じています。後述しますが、その後、年齢や障害を理由に差別を行うことを禁じる法律も追加制定され、それらの法律が正しく執行されているかの管理もEEOCが行っています。統計では年間10万件以上の申し立てが寄せられ、それぞれの申立は精査され、必要に応じて申立者の代わりに訴訟内容の調査、和解の為の調停を行い、調停が成立しない場合は訴訟手続きも行います。これらの役割から「雇用・就労に関する差別を監視する番人/調停人」とも表現できます。
公民権法設立の経緯
公民権法はどのような経緯で制定されたのでしょうか? 今回のテーマであるEEOCの役割をご紹介する目的で「タイトルセブン」ついて先に触れましたが、「タイトルセブン」が含まれる公民権法は全11編で構成されています。「タイトルセブン」は上述のProtected classに属する個人を差別から保護する為の条文ですが、その他の章では雇用以外にも存在した種々の人種差別の撤廃を目的とした法律が定められています。具体的には
●「読み書き能力テスト」を禁止し、投票権行使においての人種差別を禁止。
●人種、肌の色、出身国などを理由に公共施設やホテル、レストランなどでの差別や隔離を禁止し、サービスや特典、利益を平等に享受する権利を有する。
●公教育における人種差別の排除の為、人種共学に向けての適切な調査、援助、救済措置を行うこと。
1964年の公民権法設立以前は、人種分離法の下に人種分離・差別が横行していました。黒人をはじめとする有色人種がアメリカ合衆国市民(公民)としての地位を確立する為の公民権運動が1960年代にピークを迎えましたが、警察による激しい弾圧が時に国内外の非難の対象になりました。事態を重く受け止めたケネディー大統領が、1963年に新公民権法案制定を提出しましたが、特に南部の議員の強い抵抗があり、すぐには法案成立に至りませんでした。志半ばの同年11月にケネディー大統領は暗殺されましたが、その後ジョンソン次期大統領が引き継ぎ、1964年に合衆国連邦議会で法案が成立。制定から半世紀以上を経た今日も、アメリカ社会に根強く残る人種差別撤廃のために不可欠な前提として、重要な法律であることに間違いはありません。
EEOCが管理・監督する法律
1965年に設立されたEEOCは時代の流れと共に生まれる差別解消の為に、存在感を増しています。2019年現在、「タイトルセブン」で定められたProtected Class以外の差別撤廃の為にも日々監視を行っています。下記に新時代のProtected Classとも呼ぶべき差別禁止対象Classの一部をご紹介させて頂きます。
●PDA(The Pregnancy Discrimination Act – 妊娠差別禁止法)
妊娠、出産またはこれらに関する身体的及び精神的な健康障害に基づく雇用上の差別を禁止。
●ADEA(The Age Discrimination in Employment Act)
40歳以上の個人に対し、年齢を理由に雇用に関する差別をすることを禁止。
●EPA(The Equal Pay Act)
実質的に同等な仕事をしている男女間の報酬を規定する法律。
●GINA(The Genetic Information Nondiscrimination Act)
雇用主が従業員や求職者の遺伝情報を保管する場合は、従業員の個人ファイルではなく、個別のファイルを作成し、守秘義務のある医療記録として扱い、別場所での保管を行うことを定める法律。
時代の流れ、急速なテクノロジーの発達によって、このような法律制定は今後も加速していきます。実際にイリノイ州では去る5月29日に、Artificial Intelligence Video Interview Actという法律が可決されました。AI(人工知能)を使用した面接がある場合に、採用側が候補者側に、どのようなプロセスで面接を行い、どのような結果が起きうるのかという点を説明し、候補者側の同意を得る必要があるという法律です。
1964年には到底考えられなかったであろう法律が、実際に施行されています。社会発展にとっては望ましいことではありますが、同時に雇用主としてはこれらの法律を知り、社内で周知徹底を図ることが求められます。弊社人事アウトソーシングサービスでは、上記法律アップデートを含めた様々な情報も提供させて頂いております。お役に立てる機会がございましたら、お気軽にご相談下さい。
Akihiro Yamada(山田明宏)
Midwest – South Regional Sales Manager
Actus Consulting Group, Inc.