ニュースレター

2018-10-24
Newsletter October 2018: 忠誠心と転職意欲
はやいもので今年もあと2か月ほどを残すところとなりました。私は以前リクルーター業務を担当しておりましたが、そのころは11月、12月は求職者の転職意欲が低く、候補者を探すのに一苦労な時期だったことをよく覚えています。11月はベテランズデーとサンクスギビングのホリデーがあるのでバケーションで旅行に行こうという気持ちになる傾向にあり、転職活動に集中できない月。12月は年末の人事考課を待って、ボスにどんな評価がもらえる?ボーナスはどのくらい?来年の昇級はどのくらい?昇進できる?この会社での将来性を考えてみたい。。。といった思考が巡る月。人事考課を終えて大満足の方はひとまず転職意欲が落ち着きますが、人事考課を不満な気持ちで終えると、転職意欲満々となり、“新年”というなんだか新しいことが起きそうな予感(乃至は希望的観測?)を胸に、転職活動に積極的になるという方程式です。

さて、LOYALTYという単語。今年、何度この単語を耳にしたことでしょう!(え?してませんか?“TRUMP LOYALTY”のキーワードでグーグル検索をしてみてください。私は0.44秒で25,100,00件の検索結果が上がってきました!)このLOYALTY=忠誠心は様々な形態があるものです。愛国心もその一つ。スポーツチームの応援。アマゾンショッピング中毒もその一つでしょうか。従業員の会社に対する姿勢もその一つかもしれません。この従業員の会社に対する忠誠心に関して興味深いコラムを読みましたので、今回はその内容をご紹介いたします。

多くの就労者が「雇用主に対して忠誠心があるか」、との問いにYESと答えるのではないかと思います。では同じ回答者に現在の雇用条件よりよい条件が提示されれば、彼らはそのジョブオファーに飛びつくものでしょうか?最近のあるビジネスコンサルティング会社の調査で、こんな結果が出たそうです。2000人のフルタイム就労者に調査を行ったところ、「雇用主に対して忠誠心を感じるか?」という質問にYESと回答したのは82%に上りました。にもかかわらず、「“Right job opportunity”があれば離職するか?」の質問のYESの回答率は59%。つまり、大多数が会社への忠誠心はあるけれど、転職のチャンスはいつでも大歓迎、という結果です。

この調査報告書はこの結果をこのように分析しています。「多くの就労者が現在の雇用主で継続して就労したいと思ってはいるものの、つまり、雇用主にさして大きな不満があるわけではないものの、求人ポジションで溢れる現在のジョブマーケットにおいては、仕事がマンネリ化してきたと感じたり、行き場が見付からないと感じた場合、いくらでもチャンスが転がっていることから転職にその不満解決を見出そうという気持ちになるものだ。雇用主が従業員に何らかのチャンスを提供できなければ、そのチャンスを他で見つけることができる時代だし、見つけて出て行ってしまうものだ。」

10月の労働局の発表によると8月末日における全米の求人案件は合計7千百万件。8月の採用件数は5千8百万件、離職は5千7百万件でほぼ同レベル。明らかに、ジョブマーケットに求人案件が溢れているとの“感覚”を裏付ける数字です。上述の調査では入社1年未満の回答者の45%が、職場で何か面白くないこと、ネガティブなことがあったその日に求人募集に応募をしたことが明らかになりました。勤続年数によって忠誠心の重みや意味合いは違うものだと思いますが、この調査を行った会社のマネージングディレクターは「今日の忠誠心は一昔前とは大きく異なる。雇用主に対する忠誠心を、組織に所属する間はできるだけのベストを尽くし業務にフォーカスすること、と考える就労者もいれば、勤続1年や2年を経ると自分は雇用主に忠誠な従業員だ、と思う就労者も多い。」と説明しています。

1年勤続の忠誠な従業員である自分に思うようなチャンスを与えられない雇用主は雇用主の問題だ、ということでしょうか。雇用主にしてみれば、1年の勤続従業員は、相当のスーパースタークラスでない限り、やっと仕事を覚えかけてきた頃で、まだまだ会社としては“投資”期間。ROIはマイナスです。こんな時期に辞められては雇用主の受けるダメージは多大ではないでしょうか。そんな痛いご経験をお持ちの方も少なくないと思います。今年度の全米の自主退職は米企業に6千億ドルのセットバックをもたらすだろうとある研究機関は発表しており、平均で1名の退職者につき雇用主には退職従業員の基本給の33%のコストがかかる計算になるそうです。

このような調査結果ではありますが、概ね、どの回答者も現在の雇用主でロングタームの就労をしたいとは考えており、半数以上が今後5年間は転職をするつもりはないし、転職をするのであれば、現在の報酬の20%アップがなければ意味がない、と回答しています。これは雇用主にとってはグッドニュース。勤続年数で計測する雇用主への忠誠心は、ジェネレーションによっての感覚の違いがよく取りざたされるものですが、ジェネレーションX層(現在の年齢が39歳から54歳の層)の62%、そしてミレニアル(現在の年齢が25歳から38歳)の43%が現在の雇用主のもとで今後5年以上就労するつもりだと回答。Gen X世代とミレニアル世代に20%の開きはあるものの、5名に2人は今後5年以上転職をするつもりはないと回答しているのは、ミレニアル世代は“ジョブホッパー”であるとされる既成概念が少なからず正しく彼らの指向を反映していないとも言えます。労働人口の大半ができれば転職を望んでいない、という結果です。

更に興味深いことに、会社に忠誠心はないとの回答よりも不満を抱えている、という回答の方が上回っており、就労者の多くが会社でのアンハッピーな状態は雇用主に対する根本的な問題ではなく、何かが要因で勃発するものだと感じているようです。その一過性に過ぎないかもしれないアンハッピーも、雇用主は軽視するわけにはいかないのが今の状況と言えます。つまり、大抵の従業員は会社に対して忠誠であるにもかかわらず、何かのきっかけで転職を考える、転職を考えるとチャンスは山ほど転がっているので、手を出さずにはいられない、わけです。事実、他の同様の調査でも就労者の半数はパッシブな求職者、積極的に転職活動はしていないけれども、何か良いチャンスがあれば考えないことはない、という姿勢が報告されています。

では、会社に忠誠な多くの従業員に転職を考えさせる要因とは?報酬然り。ですが、上述のとおり、給与で転職を決めるのであれば少なくとも現在より20%アップはなければ、と考えており、報酬20%アップはかなりの大成功な転職ケースでそうそうあることではないですし、現在の報酬にそう大きな不満を抱いているわけではないとも受け取ることができます。では、何が原因なのでしょうか?一番は、成長のチャンスの欠如だ、と調査報告書は結論づけています。新しい挑戦、更に大きなプロジェクト、もっと重要な職務、管理職になりたい、など成長の意味は個人差があると思いますが、いずれにしても同じ場所で同じ仕事を何年も繰り返すことに飽き飽きしてモチベーションを失う、将来性を不安に感じる、今動いておかなければ、自分で自分の将来にふたをすることになるのでは、という気持ちを抱えてしまうことです。

大規模な組織であれば、組織内で多くのことなる事業や業務を抱えることから、組織内での転職チャンス、いくつもの昇進のチャンスがあるものでしょうが、中小企業や、成長中の企業はそうはいかないのが苦しいところですね。在米日系企業のマネージメントはそこに大きな悩みを抱えるものではないでしょうか。
中小の組織にはチャンスがない時代だ、と、ここであきらめてはいけません。

大きな組織には難しい中小の組織だからこそできることがある、と調査報告書は続けます。たとえば時代の流れにあわせて敏捷にマネージメントスタイルやオペレーションスタイルを発展させること。何千人、何万人の従業員の業務改革は並大抵のことではありませんが、数人、数十人の規模ならば斬新なアイデアを導入することも可能ではないでしょうか。従業員が日々の“タスク”的な業務に追われ仕事がマンネリ化しているのであれば、テクノロジーの導入で機械的な業務は機械に任せ、新しい業務への挑戦のチャンスを生み出したり、“タスク”的な業務向きの従業員には新しいテクノロジーの習得にチャレンジするチャンスを与えるのもひとつの方法。要は如何に従業員のモチベーション付を図り、長期的な展望を持たせることができるかである、と同調査は提言しています。

小さな組織が、人材流出防止のためにできること。まず、従業員に、ストレートに今後5年以上、この会社で働こうと思っているかどうか、聞いてみること。答えがNOであれば(NOと言えなくてもYESではなさそうな気配であれば)、どんな仕事に興味があるのか、組織内でその興味に沿ったチャンスはないものか、一緒に検討をしてみてはいかがでしょうか。今すぐにそのチャンスがなくても、その可能性があるのであれば、従業員はどんな努力をするべきなのか、雇用主はどんな機会を与えられるものなのか、探り続けることで、従業員には希望と将来への期待が生まれるきっかけになるものです。調査の回答者の70%の回答者が、同じ組織内での部署や業務の異動には安心感があると答えています。他社への、他業界への転職はエキサイティングではありますが、失敗する可能性もはらんでおり、不安がつきまとうものです。従業員の成長の機会は新しい業務だけに限るものでもないのではないでしょうか。資格の取得、新しい技術の取得など社内外のトレーニングに投資をすることも、従業員とともに企業が成長できるチャンスとなる可能性が大いにあると思います。私も社内転職で今の仕事に至りますが、長い間携わり、それなりの成果を挙げていた過去の経歴を全て後にし、成功すると確実に言えない新しい仕事に挑戦するのは、かなり緊張する出来事でしたが、同じ組織内であることの安心感が根底にあり、ストレスに悩まされることなく、ここまでやってこられています。

最後に、人事考課は適切に行われているでしょうか。1年に1度のやっつけ仕事にはなっていないでしょうか。年末の人事考課は、管理職者にとって面倒で荷の重い“タスク”になってしまっているのであれば、人事考課を行う意味が従業員に伝わっていないことは明らかです。。人事考課は従業員の成長にとって、ひいては企業の目的達成、事業の拡大になくてはならないツールです。年に一度の10分、15分のミーティングで済ますものではなく、1年を通して行われる管理職者の重要な職責です。人事考課は、従業員をゴール達成に導くこと、管理職者と従業員の生産的な関係を築くためのツールでなければなりません。人事考課が効果的に行われていないと感じられるのであれば、組織として人事考課の方法や管理職者の人事考課の方法の教育の見直しが必要なのではないかと思われます。

大抵の従業員が、雇用主に忠誠心があると考え、できれば転職はしたくはない、と考えているのであれば、後は雇用主の努力と工夫次第で従業員のターンオーバーを防止できる可能性が大いにあると言えるのではないでしょうか。退職者が出るたびに多額なコストがかかり、組織の成長も思うようにはかどらないことを考えれば、今の従業員にその分を投資してみるのはいかがでしょうか。

大矢まどか
人事アウトソーシング担当
Actus Consulting Group, Inc.