2018-07-25
DOL
この略語に馴染みがありますか?
前回はI-9の正確な記入と保管とICEの監査についてご説明いたしましたが、今回は引き続き、“監査”がらみのテーマです。人事関連の“当局の監査”と言えば、前回のテーマのICE監査、そしてこれからご説明しますDOLの監査です。DOLはDepartment of Laborの略語、労働局のことです。連邦労働局は労働者に関連した各種問題を監督するために1884年に設立されました。
DOLのミッションステートメントは ” to foster, promote, and develop the welfare of the wage earners, job seekers, and retirees of the United States; improve working conditions; advance opportunities for profitable employment; and assure work-related benefits and rights.” (「米国の労働者、求職者、退職者の安泰を育み、推進し、発展させること、そして、労働条件を改善し、利益をもたらす就労の機会を促進すること、就労によって得られる福利厚生と労働者の権利を守ることを我々の使命とする。」)。この使命を果たすべくDOLは監査を通して各種労働法の遵守を執行し違反の取り締まりを行います。米国で会社を運営し社員を雇用するからには、雇用主は移民局同様、労働局の存在と労働局のアクションに敏感である必要があると言って過言ではありません。
DOL AUDIT – THE WAGE AND HOUR DIVISION/FLSA
労働局の監査には、色々なタイプがありますが、最も力を入れて取り締まりが行われているのは労働局内のThe Wage and Hour DivisionによるFLSA執行のための監査だと思われます。FLSA=The Fair Labor Standard Act、日本語では公正労働基準法と翻訳されている連邦労働法は、賃金支給、最低賃金、未成年の就労、記録管理等について規定するもので、エグゼンプト・ノンエグゼンプトステータスや最低賃金額、給与支給頻度、給与明細にリストされるべき項目、就労時間の記録、といった内容に細かなルールが設けられている、大変重要な法律です。
DOLは連邦政府にだけではなく州政府にも存在し、州によっては独自のFLSA規定を設けているため、DOLの監査は連邦レベル、州レベル、いずれにても行われる可能性があるものです。州にFLSAが設けられている場合は州のFLSAの方が基準が厳しいため、州法を遵守していれば一般的に連邦法の遵守に問題はありません。最低賃金を例にとりますと、現在の連邦法の最低賃金は$7.25ですが、ニューヨーク州は$10.40、ロングアイランド及びウェストチェスターは$11.00、ニューヨーク市は11名以上を雇用する企業は$13.00、10名以下の企業は$12.00です。従って、ニューヨーク市の雇用主は時給$7.25で社員の雇用はできません。
AUDIT
連邦DOLも州DOLも管轄地域の全ての企業を対象に監査を行う権限があります。通常は事前に通知がありますが、事前通知と言っても2日や3日しか猶予がないことが多く、また抜き打ちの場合もあるため、日ごろしっかりと遵守を心掛けたプラクティスを行っていなければ、DOLの監査を事無く終えることは不可能です。以下は最近実際にあった抜き打ち監査の例です。2日前の事前通知があった後、労働局からA社に5名の調査官が訪れ、各種記録のレビューと経営陣及び各部署から選ばれた社員へのインタビューが行われました。調査官の着目点は
• 社員の賃金及び就労時間の記録
• サービス残業は行われていないかどうか
• 残業代の支払いが法に照らし合わせて行われているかどうか
• エグゼンプトステータス社員のステータス区分の正当性
• 全社員が法に沿って食事休憩及び小休憩を取っているかどうか 等々
経営陣とのインタビュー(就業規則の内容にまで質問は及んだそうです。)には弁護士の立ち合いが許可されましたが、一般社員とのインタビューは調査官との一対一でした。
調査内容をいくつか挙げると。。。
*経営陣とのインタビューにて過去2年間の全社員の情報(住所、給与レート、ジョブタイトル、シフト、エグゼンプトステータス、電話番号)の提出や、直近のペイロール関連書類の精査、給与計算・残業代の計算のベースとなる1週間の区分といった質問が行われました。労働局の目的は個人面談をした社員の記憶と会社の記録の適合性、間違いない残業代の支払いが行われているかどうかの確認です。
*社員との個人面談で、社員のジョブタイトルと業務内容の詳細の質問が行われ、適正なエグゼンプトステータス区分が行われているかどうかの調査があったそうです。FLSAによりエグゼンプトとされている“Outside Sales”職の社員が本当にOutside Sales=外回りの営業員なのかどうか、は最もよく起きているステータス区分の誤りなため、当然、Outside salesとする社員が呼ばれ、1日の行動を事細かく質問されることになりました。Outside Salesエグゼンプト社員は、1日のほとんどをオフィスの外に出て顧客先の訪問や新規顧客の開拓を行わなければならず、この条件に見合わなければ、Outside Salesエグゼンプションとは言えないため、では、Administrativeエグゼンプションとしては適格なのか、Administrativeエグゼンプションとしての給与条件はクリアーしているのか、がポイントです。
*昼食休憩時間についての質問もあったそうです。連邦法で、20分以内の休憩は就労時間とみなされているため、就業規則によって昼食休憩は無給とされていても、20分以内しか食事時間をとっていなければ賃金が発生することから、この違反がないかどうか、つまり賃金の未払いはないかどうか、がこの調査のポイントです。
*調査官は、法定のポスターが、全ての社員が目にすることができる場所に掲示されているかどうかのチェックも行い、掲示されているポスターの写真も撮っていったとのことでした。
WHAT TRIGGERS AN AUDIT?
DOLの監査の対象になる理由は数々考えられます。上述通り、連邦労働局も州の労働局も管轄地域の雇用主の監査をいつでも自由に行う権利がありますから理由も必要はないわけです。ただし、間違いなく、一番の原因は社員の通報です。
例えば、残業代を適切に支払われていないと感じた社員が労働局のホットラインに電話をし苦情を訴えたとします。それが証拠に裏付けられた事実かどうかがこの段階では重要ではありません。通報がきっかけで労働局が監査に乗り込んできた結果、通報した社員の言い分は会社側に何の違法行為がないものの監査によってその他の違法行為が発覚してしまった、ということにもなりかねません。日頃の社員とのコミュニケーションが大きくものを言う部分です。御社の管理職と社員との間のコミュニケーションは大丈夫ですか?よく社員の声に耳を傾けていますか?社員の苦情申し立てのプロセスはクリアーですか?オープンドアポリシーは周知されていますか?
まとめ
いかがですか?もし、明日いきなり労働局が監査にやって来たとしたら。。。ご自身の回答にも社員の回答にも、断然の自信が持てますか?
自信をもってYESと言い切れる方はそういらっしゃらないと思います。この機会に、FLSAという法律のおさらい、就業規則の読み直し、連邦及び州のWage and Hours法に遵守しているかどうか、タイムシートの入力と保管は?など、見直しをしてみられると良いかもしれません。
大矢まどか
人事アウトソーシング担当
Actus Consulting Group, Inc.