2019-11-20
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全米各地を寒波が襲っておりますが、冬支度はお済みでしょうか?
とはいっても寒さや雪に対する備えではなく、この時期に雇用主・人事担当者が知っておきたい冬支度についてです。雇用主・人事担当者にとって最も大事な冬支度と言えば昇給率の設定です。そこで気になるのが世間一般の傾向。
従業員のエンゲージメントの度合いは給与のみで決まる訳ではありませんが、昇給率により会社に留まるか退職するかの判断を行う従業員が多く存在することは事実です。昇給率は雇用主・従業員双方が関心のある内容であり、その関心を示すかのように、毎年この時期になると私どもも多くのお客様から昇給予測調査データはないか、とのお問い合わせをいただくものです。そこで今回は今夏以降に発表された2020年の昇給予測調査の結果をまとめてお伝えしたいと思います。
一言で申し上げれば、2020年度の昇給率も、この数年の動向と変わらずごく最小限に抑える傾向にある、という結果です。今年上半期折り返し地点で行われた給与調査会社や報酬コンサルティング会社の調査結果が示す指標によると、2020年度の給与上昇率平均は全米で3%を少し上回るほどという結果が出ており、2019年の実際の平均予算のわずか0.1%増加にすぎません。50年振りの低失業率で人材確保に各企業が苦戦している状況にもかかわらず、賃金の伸び率が加速していないことを示しています。経済成長の停滞や市場の先行き不安感を反映した雇用主の慎重な姿勢を示すもので、インフレ率を加味すると、多くの労働者が実際に感じる昇給はほぼないに等しいとの見方もあるようです。
その他の調査でも2020年の昇給予算の中央値を3%程度と予測しており、職能別では下記の通りです。
調査1
• エグゼクティブ:3.2%の昇給(2019年比横ばい)
• その他管理職:3.3%の昇給(2019年の3.1%から上昇)
• エグゼンプト従業員:3.3%の昇給(2019年の3.2%から上昇)
• ノンエグゼンプト従業員:3.3%の昇給(2019年比横ばい)
調査2
• エグゼクティブ:3.2% (2019年の3.1%から上昇)
• 管理職(エグゼクティブを除く):3.2% (2019年比横ばい)
• エグゼンプト(管理職を除く):3.2% (2019年の3.1%から上昇)
• 年俸制ノンエグゼンプト3.1% (2019年比横ばい)
• 時給制ノンエグゼンプト:3.1% (2019年の3.0%から上昇)
また、米国の大手人事コンサルティング会社が実施した2019/2020年米国給与計画調査によると、2020年度のメリットインクリース(個人の成果に応じた昇給)の予算の増加を決めた企業は全米で1/4以下 (21%) にとどまり、大半はメリットインクリース予算を変えない方針でいることが明らかになっています。また、2020年の全体給与予算の増額も2019年の2.9%に比べ、3.0%に伸びただけの結果となりました。
それならば、昨年と同じような3%程度のベースアップで十分だと考えて良いものでしょうか?事はそう単純ではないのが現状です。失業率も低く、また業務の専門家、ホットな技術を持つ人材のニーズが高く人材獲得競争に勝つために、企業は給与予算をはるかに超えた給与を支払っていることも大手給与調査会社の報告書で発表されています。つまり、優秀な人材や将来を嘱望する人材の流出防止や採用のために、企業は給与予算の配分の工夫を余儀なくされているのが実態です。多くの企業が「1年に1度の昇給」という従来の形態から「業績に応じて年に何度もの昇給のチャンスを設け」たり「市場価値の高い技能を持つ従業員に対する技能報酬を支給する」ための予算ねん出をするために、報酬予算の使い方を精選する傾向にあり、人事管理においてコンペンセーション(報酬)プランニングが非常に重要な役割を果たす時代になりました。
中でも実績・業績を重要視する企業が目立ちます。米国大手人事コンサルティング会社調査によると、2020年度の実績別のメリットインクリース(実績をベースにした昇給)の上昇率は、ミドルパフォーマーと入パフォーマーの間に2.7%の大幅な差が存在する結果が出ています。
その一方で、給与額が従業員にとってあまりにも分かりやすい指標であるが故に、人材の確保を確実なものにしたい規模、地域の企業の賃金伸び率は上昇しているのも事実です。以下のデータで示されているとおり、やはり企業の体力がモノを言うのか大手企業の方が時給の伸び率を上昇させているという傾向が出ています。
このデータを御覧になって大手企業であればあるほど、より良い人材を確保できるという結論を導き出してしまうかもしれません。打つ手はないのでしょうか?予算に限りがあるものは仕方ありません。ですが、御社にマッチした従業員の採用やリテンションのために、どんな工夫や努力をしてきたか、または検討したことがあったかどうか、是非検証してみてください。報酬は基本給のみで成り立つものではありません。社内のバランスを考えて基本給に厚みを持たせることができない、スタートアップなので将来性には自信があるが現在はキャッシュがショートしている、というような場合あれば、サイニングボーナスやストックオプション(株式公開をしていない企業でもアメリカではファントムストックプランという方法があります。)といった方法もあります。
報酬は何もお金だけが全てではありません。特にミレニアル世代以降の就労者は、仕事に自分の価値観を重ねたいと考える傾向にあります。御社のミッションやバリュー、ビジョンを明確にすることで、御社の方針に共感を覚え、会社へのロイヤリティーが増すこともあるのです。それ以外にも、ターゲットとするジェネレーションが求めるものや事情(家族、子供、年老いた親の介護など)を理解し、ワークライフバランスを重要視して、「勤務地の選択」「有給休暇の無制限取得」「フレックス制度の導入」「在宅勤務制度」「社内での多様なキャリアパスの提供」「従業員教育・トレーニング制度」「従業員割引」といった経験型のベネフィットを提供することにも前向きに検討し、制度化していくことで、コンペンセーションプランを充実させることも可能です。
様々な働き方が認められるようになり、テクノロジーが後押しすることで各雇用主が提供できるベネフィットの多様性の追い風になっています。少人数であるからこそ従業員に対して提供できるベネフィットもあるということも付け加えさせて頂きたいと思います。
この年末の時期は人事考課で従業員の方とお話する機会のある雇用主の方も多いと思います。昇給率データは従業員も気にするところなので、しっかりとした準備をされる必要がありますが、平均の昇給率ばかりではなく、ターゲットを絞った給与ベンチマーキングデータの入手も必要でしょう。米国でも自動的に一定額の昇給が行われるケースは存在しますが、個々のパフォーマンスで評価される方法が主流です。そして、従業員は昇給率=自身のパフォーマンスへの評価と捉えて交渉に臨みます。もちろん平均昇給率以下の昇給が違法になる訳ではありませんが、報酬制度の不透明性は従業員の不満や会社に対する不信、さらには差別問題にもつながりかねず、最悪のケースでは辞職、そして訴訟にまで繋がってしまうリスクも発生します。
コンペンセーションプランニングは簡単なことではなく1日、2日でできるものではありませんが、自社の方針に照らし合わせ、どんな人材を必要としているのか、長期的な雇用を望んでいるのか、それとも短期で入れ替わりがあってもかまわない職種なのか、スーパースター的な従業員は誰なのか、将来を嘱望する従業員は誰なのか、現在のパフォーマンスに対して報酬を与えるのか、将来性に投資をするのか、ある特定のグループの従業員を差別するようなシステムになっていないだろうか、また、これらのコンペンセーションプランが、従業員のやる気をそそり業績向上につながるのか、そもそも、従業員のパフォーマンスを適切に評価できているだろうか、その評価を明確に伝えられているだろうか、ジョブディスクリプションは用意できているか、雇用主の期待を従業員が十分に理解できているだろうか、従業員とのコミュニケーションは十分にできているだろうか等、従業員の昇給を検討するにあたり、考えてみることがたくさんあるようです。
何を考えて来なかったのか、従業員とのコミュニ―ションは十分だろうか、新年を迎えるにあたり、まずは「できていない」リストの作成から始めてみてはいかがでしょうか。