2013-08-01
アメリカにある日系企業の中では人事機能を専任で置いていない会社もあり、とりわけ中小規模の組織では他の業務と兼任して人事を担当しているケースが多くあります。また、優先順位も法的に期限が決まっている会計や本業である営業活動などと比べて低い、といった現状が見受けられる所もあります。そのような中、自社の人事制度に関して以下の見解をしばしば耳にします。
「ウチはほとんどが日本人のスタッフだから大丈夫」
「ウチは規模が小さいから大丈夫」
「ウチは過去にも問題が無かったし、うまくやれてるから大丈夫」
実はその「大丈夫」、もしかしたら大丈夫ではないかもしれません。そこで、人事に関する対策が不足する場合に潜在するリスクをいくつか挙げてみました。
[従業員から訴訟のリスク]
オフィスで一緒に働いている大半が日本人スタッフであったとしても、気を付けなければなりません。日本では特に問題視されないような言動や行動でも、アメリカでは別の常識があるためにハラスメントや差別と捉えられてしまう可能性もあります。また、規模が小さく家族的な関係が成り立っていたとしても、もし内心不快な思いをしていたとしたら、外部に駆け込むという事も考えられます。実際にそのような環境下で、過去に多額の賠償金を企業が個人に払う事になってしまった実例もあります。ここは日本ではなくアメリカであり、常識も異なれば突然訴訟問題に繋がる可能性がある事を忘れずに、行いに配慮を心がける事が大切です。
[オーディットを受けるリスク]
過去に問題が無く、現在もオフィスのスタッフに不満は無い場合でも、外部からの判断もありうる事を忘れてはいけません。飲食業に対する保健所の抜き打ちチェックと似た形で、通常の日常業務を行っている中で突然労働局などの公的機関が監査に訪れる可能性もあります。他人事と感じる部分もあるかもしれませんが、実際に突然監査がやって来て、ビザと実務との整合性を確認したという実例もあります。その際、社内規定や法律のポスター、書類の保管など多岐にわたる項目を確認される事も予想されますので、普段使わないからと放置してしまわずに、定期的に人事関連の整備を行う事が重要です。
[社内が最適に回らないリスク]
社内外からクレームを受けず現在は順調に進んでいたとしても、人事戦略には常にフォーカスしなくてはなりません。組織の人員の増減があった場合や景気の動向の変化などといった、内外での環境変化があった場合に次第に上手く行かなくなって来る事も考えられます。実際に最近多いご相談として、雇用が長いメンバーで、昔と仕事量が変わっていないものの給与ばかり高くなってしまっているといったケースがあります。給与指標がなくても上手く回っていた時と同様のやり方で続けて来た所、景気や社内の現状と合わなくなってしまったというケースです。今のところ問題が無いのは良い事ですが、変化が起こった際に対応できるよう人事戦略を見直す習慣を作る事がポイントです。
もちろん、立派な人事制度を備えて良い運用をするに越した事はありませんが、まずは基本的な事を漏れなく行う(ポスターを貼る、書面の保管、残業代を払うなど)、周りが不快と感じる様な事をしない(ハラスメント・差別や偏った評価をしないなど)、記録を取る(勤怠管理、注意・勧告、評価など)などを心掛けると同時に、良いコミュニケーションを取り、認識のズレや心の摩擦を回避して行く事が何よりも大事な事なのかと思います。
小楠 仁啓
Imageon Consulting
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