ニュースレター

2018-03-21
Newsletter March 2018: ライトスタッフ
早いものでもう立春を迎え、東京では既に桜がちらほら咲き始めたようです。皆様におかれましては、日本本社の会計年度新年に合わせ、本年度の米国法人におけるビジネス戦略の導入準備で殊更お忙しい毎日をお過ごしではないでしょうか。特にアメリカ経済の好調に伴い、こちらでの事業拡大をご計画であれば、人材採用は企業としての成功を左右しかねない重要なプロジェクトとしてお考えのことと思います。なかなか適任者が見付からなくて悩んでいる、といった声をよく耳にいたしますが、これは何も日系企業に限った悩みではありません。

さて、今回のタイトルの“ライトスタッフ”。1983年に公開されたアメリカ映画”The Right Stuff”の邦題『ライトスタッフ』を拝借いたしました。1979年に出版されたトム・ウルフによる同名のドキュメンタリー小説を原作とした作品で、NASAのマーキュリー計画(宇宙に人間を送り出す国家プロジェクト)を背景に、「ライトスタッフ(飛行士としての己にしかない正しい資質)」に従い困難に挑み続けるパイロットたちの姿と、ソ連に先を越されて焦るアメリカ国家の重圧に耐えながらも信頼の絆を深め合った彼らの生き方を称えた物語、なのだそうです。私はこの映画を観たことも小説を読んだこともないのですが、この“ライトスタッフ”に込められ意味合いと最近読んだDismissed by Degreeというリサーチ報告書の内容が重なり、加えて、Stuff(資質)→スタッフ→Staff(社員)という語呂合わせが頭を過ぎり、right stuff備えたright staffを採用するためには?が今回のテーマとなりました。


さて、“Degree Inflation”=学位インフレという単語をご存知でしょうか。昨年10月にハーバード大学ビジネススクールとコンサルティングファームのアクセンチュア社、学士号を持たない若年成人の雇用機会の援助を目的として企業との共同活動を展開する非営利団体のGrads of Lifeが共同で行った上述のリサーチ報告書 ”Dismissed by Degrees” (学位条件のせいで相手にされない、という意味。学位というハードル、とでも翻訳するとわかりやすいでしょうか。)で、従来、高等教育が必要とされてこなかったミドルスキルジョブの採用の条件として「4年制の大学卒」が君臨することの重大な問題を検証しています。ミドルスキルジョブとは業務を遂行するにあたり高校卒業以上4年制大学卒業未満の学位で十分とされてきたパラリーガル、秘書、一般事務、セールスレップ、経理担当者/ブックキーパー、営業、人事アドミアシスタント、トラベルエージェントといった職業を指します。2015年に何百万件もの募集広告を対象に行った調査によると、ミドルスキルジョブの業務内容の難易度が増したわけでもないのに、多くの雇用主が4年制大卒を応募の条件としていることが判明。実際に現在これらのミドルスキルジョブに就いている労働者の学士号保有率と募集広告に大卒条件が含まれている割合を比較すると前者が平均33~34%に対し後者は70 %。平均して40%のDegree gapです。米国に存在する“職”の過半数以上はこのミドルスキルジョブによって支えられていますが、ミドルスキルジョブの業務を遂行するのに十分な技術やポテンシャルを持つ求職者が市場に溢れるにも関わらずこれらの求職者が学士号を持っていないことが原因で雇用主が彼らに食指を動かさない結果、なかなかこれらのポジションを埋めることができない、求職者が職に就くことができないという事態、これがDegree Inflation=学位インフレです。

昨今、大幅に失業率が下がり国民の生活が安定しているかのように見えますが、労働統計局の発表によると、現在、アメリカには1200万人以上の失業者/フルタイム雇用を希望しているパートタイム就業者が存在するにも関わらず5社中3社の割合で雇用主はミドルスキルジョブポジションを埋められないとの悩みを抱えています。学位インフレは、米国のビジネスの弱体化を招くだけではなく、意欲のあるミドルスキルを持つ労働者のキャリアパスを閉ざし、多くのアメリカ人の生活の安定を脅かすリスクに直面している、とこのDismissed By Degrees報告書は指摘します。雇用主が、大卒求職者を求めるきっかけになったのは2009年に世界を激震したリーマンショックによって引き起こされた大恐慌。市場に失業者があふれ、条件を下げてでも就職先を求める求職者が数少ない募集案件に列をなしたため、雇用主はミドルスキルジョブのポジションで大卒者を採用することができるようになったことが、リーマンショックから10年経った今、習慣化してしまったこと、また雇用主に大卒者の方がハードスキル(業務を遂行する技術などの外的スキル)もソフトスキル(コミュニケーションスキルなどの内的スキル)も高く、育成もしやすいという思い込みが定着してしまったことが挙げられています。その反面、多くの雇用主が、経験を積んだミドルスキルを持つ低学歴の従業員と大卒の従業員の間に生産性の格差は存在しない、またはミドルスキル従業員の方が生産性が高いことも認めているのです。また、大卒者の採用は困難を伴うにも関わらず彼らの転職意欲は高く、職務に対する意欲も低いとも感じており、社員の入れ替わりが速いのは新卒大卒者の仕事に対するこの姿勢だと感じている雇用主も少なくありません。にも拘わらず、募集広告には大卒が応募条件として掲載され続け、経験と技術を持つミドルスキル求職者よりも、スキルも経験もない新卒の大卒者が採用され続けているのが事実です。また、同じ職務でも経験を持つ低学歴のミドルスキル従業員より新卒の大卒従業員の方が高額な給与の支給を受けており、その差額は11~30%にものぼるとのこと。これだけ厚遇されていても大卒従業員は競合他社に転職をしていくのです。

この報告書は決して学位を軽視することが目的ではありません。雇用主が狭いタレントプールでしか候補者をサーチしないことの危険性を訴えており、同時に社員採用時には求職者のスキルを重要視して選考を進めるよう促しています。
蔓延する学位インフレの対応策として報告書は経営者に対し以下を推奨しています。

1. 組織や業界内でどの職務が学位インフレの影響を受ける傾向にあるのかを検証し認識すること。
2. “大卒”以外の採用時の基準を模索すること。どんなハードスキル及びソフトスキルが組織内で重要なミドルスキルジョブを遂行するに当たり必要不可欠なのかを明確にし、社内の社員育成プログラムの開発や社外社員育成プログラムの導入、インターンシップの積極的な導入による業務遂行スキルの指導を可能とするシステムを作ること。
3. 大卒従業員との学歴のないミドルスキル従業員の採用にかかる費用の比較すること。
4. 組織にとって適切な能力を持った求職者の採用及び社員の転職を防ぐための戦略、導入に投資を行うこと。


日本では伝統的に学歴を重要視する傾向にありますが、それが今日のアメリカにも起こっており、その傾向にアメリカ経済を縮小させる大いなるリスクが潜んでいるのであれば、在米日系企業も同じ、またはより大きなダメージを受ける可能性があるのではないでしょうか。なかなかポジションが埋められない→既存の社員に負荷や重圧がかかり、社員の不満が募る。→社員のマネージメントに対する信頼度が低下。企業カルチャーの育成ができない。→新規採用を実現するために予算オーバーの給与でスキルのない大卒者を採用する。(予算オーバーの給与を提示しても、スキルや経験のある求職者はもっと高額の給与のオファーを受けて米系企業に就職していくため、新卒者レベルの採用になってしまう、という構図。)→現場の社員のストレスは軽減されるどころかスキルのない高級新入社員が足手まといとなって状況がさらに悪化。→仕事を少し覚えたころに、大卒新卒者が転職していく。といった悪循環を繰り返すことになりかねません。

そこで、思い切って、採用時の基準を見直してみる必要があるのではないでしょうか。学位インフレの犠牲者になってはいないか、賢い採用ができているのだろうか、学歴に限らずそもそも設けている採用基準は業務遂行において重要な基準なのか。その基準を満たしているかどうかを採用プロセスにおいてしっかりと査定してきたかどうか、といったことの見直しです。学位以外に何かこだわり続けてきたものの、その理由が何なのかイマイチよく理解できない、といったことはありませんか?また、意識しないまま感情的な選考基準に左右されていませんか?求職者の外見やなめらかなプレゼンテーションに惑わされて採用した結果、思っていたような社員としての活躍が見られず不満を抱えるものの、解雇できるほどの問題を起こさないことから困り切ったというようなご経験はありませんか?

フォーカスした採用選考を進めるにはしっかりとした準備が必要なことは言うまでもありません。ジョブディスクリプションはアップデートされていますか?ジョブディスクリプションの内容を採用担当者が200%理解していますか?面接で行う質問の準備はできていますか?全ての求職者に対し同じ選考基準で面接を行い、面接後、適切に求職者のスキルや能力を査定できるようにしていますか?採用した社員に足りない部分の成長を促すための育成準備はできていますか?

面接者にしっかりとした準備が整っていれば、書類選考であまり細かな目のふるいにかけず、様々なタイプの候補者と面接を行うことで、本当に必要としている社員を採用することができるのではないでしょうか。レジュメだけでは人はわかりません。Bachelor’s Degreeという単語がレジュメに記載されていないことだけで、転職回数が多いといった事実だけで、また、前職を離職してからのギャップが長いといったことが理由で面接を行わなければ、その求職者が学位以上にオファーするスキルや知識、能力があったとしても、磨けば光るダイヤモンドをみすみす見逃していることになりかねません。

次回の人材採用活動時には、是非上述の4点についてご検証をされてみてはいかがでしょうか。こだわりが学位でない場合は、大卒・学位という単語を他の単語(=社員採用時にこだわっている条件)に置き換えてみてはいかがでしょうか。これまで面接をしたこともなかったような求職者と出会い、ライトスタッフ(意欲も含め適切な資質)のあるライトスタッフ(適切な社員)の採用に成功し、組織文化が育まれ、その組織文化に魅力を感じるライトスタッフを持つ求職者が後を絶たない、という組織としてのライトスタッフを手にするきっかけになるかもしれません。

大矢まどか
人事ディレクター
Actus Consulting Group, Inc.
2018-03-20
Newsletter March 21, 2018: 企業インタビュー第三回 Joyo Bank, Ltd.
企業インタビュー

注目企業のインタビュー記事
様々な企業の採用活動や人事面のお悩みについて、担当者に取材した声をまとめました。

第3回 Joyo Bank, Ltd.
茨城県水戸市に本店をおく常陽銀行さん。現在日本国内に181店舗、2014年にNYにも海外3店舗目となる駐在員事務所を開設されています。今回は、首席駐在員の飯塚氏にご協力いただき、去年末にご発注いただいたNY州のペイドファミリーリーブプログラムのポリシー作成のサービスに関してお話を伺ってきました。
(2/1/2018)


-NY州ペイドファミリーリーブ(PFL)のポリシー作成を外注するにいたった経緯を教えてください。

(飯塚氏)はい、私自身昨年の10月中旬に赴任したばかりで、前任の所長からPFLへの対応ということで引継ぎを受けておりました。まず最初に、州のホームページを見たり、インターネットを使い情報収集を行いました。同時に、御社から制度をサマライズした資料をいただいたので、こういったものに目を通して概略を把握するとともに、当事務所として、従業員ハンドブックに盛り込む必要があるということを認識しました。
次のステップとして、ポリシーの作成にどう取り組んだらよいのかということを、他の銀行さんや、御社含め人事コンサルティングの会社さんに聞きました。実際にどういう文言を入れたらいいかというのが分かってきた段階で、複数の業者さんからお見積りをいただいたということですね。


-他の業者さんと比較して、最終的に弊社にご発注いただいた決め手はどこだったのでしょうか?

(飯塚氏)制度の概略は大体把握できたんですけれど、その把握できた一番の要因は御社から送っていただいた資料であったり、大矢さん(弊社人事アウトソーシング実務担当者)からの詳しい説明でした。私が一度御社にお伺いをして1時間くらいお話をうかがい、すごくクリアになったんですよ。大矢さんにレクチャーいただいた後で、クリアになりましたと私お伝えしたんですけれど、それは事実であって、またその時に費用のお話もさせていただいたんですよね。正式なお見積り、というわけではなかったですけれど、どのくらいになるというお話をその場でできたので、こちらとしてもその後非常にスムースに進めることができました。なので、単純に金額が高い、低いだけではなくて、この制度をハンドブックに盛り込むということを、御社であればきちんとやっていただけそうだなというのを感じました。


-そうだったんですね。では、実際にサービスを受けての率直な感想やフィードバックがありましたらご教示ください。
(飯塚氏)感想としては、こちらで期待してた通りのものを納品いただきました。


-ご満足いただけたようで何よりです!有難うございました。さて、アメリカでの人事、労務でお困りな点や日本との違いを感じる点などございますか?

(飯塚氏)ご存知の通り当事務所は現地採用が1人ですので、さほど人事、労務関係で困ることはないのですが、こちらのスタッフさんは、仕事に対する考え方やスタンス、取り組み方が違うというのは実感します。単純に給与だけの話だけではなく、他のベネフィットも含め比較され、今勤務してもらっているということで、こちらとしても慣れている方に極力長く勤めていただきたいと思っています。


-たしかに、おっしゃる通り、こちらですと従業員の方と企業が対等な関係というのがありますし、働かれている方が雇用主に交渉する文化もありますね。そのうえで、双方に納得がいく形で勤めていただくスタイルですね。

(飯塚氏)そうですね、また、私は人事の人間ではないのですが、ただNYの事務所で所長をしておりますので、私は人事のこと全然わかりません、というわけにはいきません。こういったPFLのような制度も含め、人事、労務に関して、アメリカならではのやり方が当然あるし、いくら日本の企業といっても、アメリカで仕事をさせてもらっている以上は、アメリカのルールの中でそのルールに則ってやっていかなければならないという点もあるので、最初その辺は勉強したり苦労しましたね。


-そうだったんですね。慣れられましたか?
(飯塚氏)まだですね(笑)。全然わからないといところもいっぱいあるので。


-何か疑問点がございましたら、いつでもお問い合わせください。
それでは、今後も引き続き人材、人事全般的にお手伝いできたらと思いますので宜しくお願いいたします。
誠に有難うございました。