ニュースレター

2015-06-15
Newsletter 2015年7月号 Interns and the Law
オフィスにサマーインターンを迎える企業も多い季節になりましたが、近年、米国では、無給インターンが賃金支払いを求めてインターン先を訴えるケースが増えており、また、インターンに対する差別禁止を法律で定める州等も増えつつあります。今回は、インターンにまつわる米国雇用法をご説明します。

1. 連邦法

連邦法であるFair Labor Standards Act(米国公正労働基準法、FLSA)において、使用者は、「通商に従事しあるいは通商のための商品の生産に従事する被用者」、又は「そのような通商や商品生産に従事する企業に雇用される被用者」に対し、最低賃金、及び週40時間以上の勤務に対し5割増しの時間外賃金(overtime pay)を支払わなければならないとされています。FLSAでは、「被用者」とは「使用者によって雇用される(employed)あらゆる個人」を意味し、employとは「働くことを許すこと(suffer or permit to work)」であるという非常に幅広い定義がなされています。

ただし、当該個人が見習い工(apprentices)、実習生(trainees)、ボランティア(volunteers)等一定の例外事由に該当すれば、最低賃金や時間外賃金の支払義務は適用されません。

2. Department of Laborや州による無給インターンの判断要素

インターンに関しては、Department of Labor(米国労働省。DOL)が、過去の最高裁判所の判例(Walling v. Portland Terminal Co.事件。1947年)を元に、営利を目的とする私企業(private for-profit employers)がインターンを無給で働かせてもよい例外的場合の6要素のテストを公表しています(なお、非営利団体や地方公共団体等に対しては、別の判断要素が適用されます)。DOLは、以下の6つの要素を全て満たせば、FLSAの定める雇用関係はインターンとの間に存在せず、よって、当該営利企業は最低賃金も時間外賃金も支払う必要はないとしています。

(1) インターンシップの内容が(仮に使用者の施設・設備のオペレーションに実際に関与するものであったとしても)、教育的環境において提供されるであろうトレーニング・訓練と類似していること。
(2) インターンシップの経験は、インターンの利益になること。
(3) インターンは、正規従業員の代替であってはならず、現に働いているスタッフによる綿密な指揮監督の下で行われること。
(4) トレーニング提供者は、インターンの活動から直接的な利益を受けないこと。場合によっては、トレーニング提供者の作業が妨げられることもあり得ること。
(5) インターンは、インターンシップが終わった際に必ずしもその後の職(job)を確保できるものではないこと。
(6) 使用者とインターンが共に、インターンシップの間、賃金を得られないことにつき理解していること。
(引用:DOL, “Fact Sheet #71: Internship Programs Under The Fair Labor Standards Act” (April 2010))
すなわち、以下のような内容のインターンであれば、これらの要素を全て満たすことになります。
-プログラムが教室や大学での経験に近い内容で構成されている、インターンシップ参加が大学での単位認定につながるようアレンジされている等(要素(1))
- インターン先でのみ必要な特有のスキルではなく、将来多くの企業で役立つようなスキルを身に付けさせる内容である(要素(2))
- 労働力の代替としてインターンを使わない(要素(3))
- 使用者の利益につながる作業(ファイリングや事務作業、顧客サービス等)をインターンにさせない(要素(4))
- 雇用の前の試用期間としてインターンシップを使わない(要素(5))
- 無給であることの確認を書面で行う(要素(6))
DOL以外にも、ニューヨーク州は独自の判断基準を定めており、上記のDOLの6要素に加えて以下の5要素を満たさなければ無給インターンは認められないとしています。
(7) 臨床的トレーニングは、知識と経験を有する人物の監督・指示により行われること 。
(8) インターンが従業員としてのベネフィットを受領しないこと。
(9) トレーニングの内容は一般的なものであって、トレーニングを受けることで、他の類似のビジネスでも働けるようになるような内容であること。
(10) インターン参加者の選抜プロセスは、従業員向けのものとは異なり、独立した教育プログラムへの参加者としてふさわしいか否かにより判断されるべきこと。
(11) プログラムに関する宣伝や案内、勧誘において、当該プログラムは雇用ではなく教育・トレーニングである旨明確に述べていること(もっとも、資格のある卒業生は、将来雇用の選考対象になるかもしれない旨示唆することは問題ない)。

3. 裁判所の判断

無給インターンによる訴訟の中でも有名なケースとして、映画「ブラック・スワン」の製作にインターンとして参加した2名が、2011年9月に映画配給会社のFox Searchlight Picturesに対して提起したクラスアクションが挙げられます。2013年、ニューヨーク州南部連邦地方裁判所は、DOLの6要素のテストを基に、Fox Searchlightのインターンは被用者に該当すると判断し、未払いの賃金支払を命じています(Glatt v. Fox Searchlight Pictures Inc., Dist. Ct, S.D.N.Y 2013)(現在、第2巡回区控訴裁判所にて控訴審理中)。
また、2012年2月には、雑誌Harper’s Bazaarのインターンがその出版社であるHearst Corporationに対し同様のクラスアクションを提起しています。この件に関しては、2013年、ニューヨーク州南部連邦地方裁判所の別の裁判官がインターン側の主張を認めない判断をしており(Wang v. The Hearst Corporation, Dist. Ct, S.D.N.Y. 2013)、現在、第2巡回区控訴裁判所にて審理中となっています。
両ケースとも、今夏の終わり頃までには第2巡回区控訴裁判所の判断が下される見込みです。
上記2件以外にも、例えば直近の事例の一つとして、2015年6月10日、Warner Music Group Corpが何百人ものかつてのインターンに対し、合計420万ドル以上の金額で和解する旨合意するなど、多くの企業が無給インターンを巡るクラスアクション等に巻き込まれています。
裁判所は、DOLの6要素テストには拘束されないため、その判断は様々です。6要素テストを採用するもの(第5巡回区)、個々の具体的事情を総合的に斟酌するもの(totality of circumstances)(第10巡回区)、主要な受益者により判断するもの(primary beneficiary)(第4及び第6巡回区)、経済的な実情により判断するもの(economic realities)(第11巡回区)等があり、今夏の第2巡回区の判断にも注目が集まっています。

4. 差別・ハラスメントの禁止

インターンについて問題となるのは、賃金だけではありません。近年、従業員に対する差別・ハラスメント禁止法を改正し、FLSAの適用が除外される無給のインターンやボランティアに対してもその適用を拡大する動きが広まっています。
現在までに、カリフォルニア州、オレゴン州、ワシントンDC、ニューヨーク州、ニューヨーク市、イリノイ州、メリーランド州(2015年10月1日施行)で差別・ハラスメント禁止法をインターンにも適用する法律が制定されており、また、コネティカット州でも同様の法律が議会を既に通過し、州知事の署名を待つ段階となっています。

5.インターンの取扱い

以上のとおり、もし、インターンシップの内容がDOLの6要素テストを満たさない場合には、インターンに対して最低賃金(連邦法では現在7.25ドル。州や市がこれを上回る最低賃金を定めている場合はその法律に従う)及び時間外賃金を支払うことが必要です。6要素テストを満たす場合には、最低賃金・時間外賃金の支払義務はありませんが、もちろん支払っても構いません。
無給インターンとするのであれば、インターンシップの具体的内容に留意するほか、申込書やオファーレターにおいて、(1)インターンターンシップ終了後、職が保証されるものではないこと、及び(2)無給であることをインターンが理解していることを明記し、また、(3)申込書やレターのフォームを社員用のものと区別することが必要です。
また、6要素テストを満たすか否かに関わらず、インターンに対する差別やハラスメントが禁止される州・市があることに注意し、また、将来、無給インターンから賃金支払を求める訴訟を提起される場合に備え、インターンが活動した時間についても記録を残すことが望ましいといえます。
(注)本記事は一般的な情報提供のみを目的としており、リーガルアドバイスを構成する目的で提供されるものではないことにご留意ください。

Epstein Becker & Green, P.C., Law Clerk
森・濱田松本法律事務所 アソシエイト弁護士
(Admitted in NY and Japan)
Mariko Morita Yanagida