2013-11-01
良く目にする問題に、現場責任者や支店長クラスの理解不足がある。人事部は十分な知識・技能・経験を有しているのに、現場責任者の知識・理解が不足しているために間違った対応や判断をしているケースがある。問題発生時に現場責任者が「時間をかけられない」「自分で対処できる」といった理由で、人事部に相談無く独断で対応を実行してしまい、問題の深刻化・長期化を招く事も多い。以下は問題が発生する状況の例である:
採用時
• 採用面接において不適切な発言・判断がなされる
• バックグラウンドチェックが適切になされない
• 採用者に特別な給与やベネフィットの約束を勝手に行う
• オファーレターや採用時の書類に不備がある
雇用中
• 部下への不適切な言動
• 部下から問題が上がってきた際の対応が不十分
• 評価表・評価面接での不備
• 必要に応じた懲戒処分を実施できない
• 部下に会社の手順やルールを説明できない
問題を防ぐ為に雇用主が行わなければならない事は、管理職・人事部の役割の明確化であろう。
【管理職の役割】
組織における権限委譲の状況にもよるが、「会社側の人間として部下の採用や評価、懲戒など人事権を持つ」というのは米国における管理職の一般的な責務である。残念ながら、管理職の人事責務が曖昧であったり、管理職従事者が自身の責務を良く理解していない、部下を管理した経験が少なく正しい判断・対処が出来ないケースは多い。
ハンドブックの内容を理解し実践する、ジョブディスクリプションの意味と活用方法、正しい評価表の作成と評価面接、部下との適切・効果的なコミュニケーション方法、問題対応方法、等を十分に理解・実践できている管理職は自社にどのぐらいいるだろうか? 管理職の多くがプレイングマネージャーであり、管理業務に割ける時間は非常に限られている。ただ就業規則や評価表などのツールを渡しても、それらを有効利用できる管理職は残念ながら多くは無い。雇用主(人事部)は管理職従事者に「管理」に関するトレーニングやサポートを提供する必要がある。
【人事部の役割】
管理職だけに管理を任せるのではなく、人事部も積極的に動かなければならない。問題解決の前段階として、手順や制度の開発・普及、前述した管理職へのトレーニングの施行、といった人事インフラの整備がまず求められる。
問題が発生した場合、人事部は管理職をサポートもしくは問題解決に介在する事により、問題の早期・適切な解決を図らなければならない。冒頭に書いたように、管理職が独断で十分な対応ができない場合は多い。人事部所属者は正しい対応の知識や経験があるであろうから、その知識と経験を基に人事部がサポート・介在をする事で問題の深刻化を防ぐ必要がある。能動的に人事部が動く事により、従業員は「問題には専門家である人事部が介入するのでフェアな対応が望める」という意識を持ち、自社への信頼が高まる事にも繋がる。(残念ながら、人事を軽視している従業員は少なくない。)
【まとめ】
今回は問題解決を主眼に管理職・人事部の役割を書いた。人事部の役割に書いた人事インフラの整備がポイントになるが、管理職へのトレーニングは忙しい彼らの時間を拘束しなければならないし、人事インフラの構築には経験豊富な人事部が求められる。人事インフラの成果は目に見えにくく、短期ではなく中長期の継続的な努力が必要である。疎かにしてしまえばモラル低下や離職率の増加、人事問題の増加など、負の連鎖による不要なコストがかかってしまうが、しっかりとした人事対応ができれば、モラル向上や健全な職場環境の育成など正の連鎖に繋がる。
まずは自社の人事状況を精査する必要がある。管理職や人事部の経験はどの程度か? 必要なツールがそろっているのか? 規程や制度は自社の状況にあっているのか? 改善の為の予算は? など多角的な視点から状況を把握し、できる範囲から始めて構わないので継続的な改善努力を行うべきだろう。
Akira Takahashi
HRM Partners, Inc. Vice President & Partner
atakahashi@hrm-partners.com