ニュースレター

2018-09-26
Newsletter September 2018: セクシャルハラスメント-うちの会社は大丈夫。。。ですか?
#MeTooムーブメントが始まってもう少しで1年になります。この1年の間に、アメリカでは多くの女性たちや性別を問わず性的暴力の被害に遭ったことのある人々、そのサポーターたちが、立ち上がり、デモ行進をし、被害を訴え、悲痛な経験を語り、議員選挙に立候補し、大きな社会運動として今日も成長し続けています。著名人や大手企業の幹部の驚きの言動が報道されると共に彼らの存在が一瞬にして消えていきました。

そして今、この瞬間、世論を揺さぶっているのが、アメリカ連邦最高裁の判事候補者としてトランプ大統領の推薦を受けたKavanaugh判事のセクシャルハラスメント容疑です。売名行為だ、同判事の最高裁判事任命を阻止したい民主党のしかけた組織ぐるみの中傷行為だ、虚偽の申告だ、37年も前のことを本当に覚えているのか、といった告発人に対する厳しい非難の声が次々と上がる中、被害者の言葉を私たちは信じる、と言って告発人をサポートする世間の声も強く、少しずつではありますが、被害者の人権が保護される時代が確かに始まったような気がします。


国会の動きはさておき、この1年間で職場におけるセクシャルハラスメントを取り締まる法律の動きは顕著で、雇用主の責任の幅が大きく拡大しました。従業員のセクシャルハラスメント行為に関し、そもそも雇用主にどのような責任があるものなのかイマイチよく理解ができない、日系の企業も従業員に訴えられて巨額の賠償金の支払い命令を受けた事例がいくつもあることは耳にしたことがあっても、加害者の刑事的責任は理解ができるが、雇用主である会社が敗訴する、和解に応じる、のはどういうことなのだろうか、と実は疑問に思っておられる方も多いのではないでしょうか。また、一体具体的にどのような行為をセクシャルハラスメントというのかよくわからない、と思っておられる方もいらっしゃるのではないでしょうか。


では、質問です。ある数人の仲の良いグループの従業員(男性も女性も含まれています)は就労時間中も何かと集まっては性的な性質の卑猥なジョークを言い合って楽しむ傾向にあります。その彼らの言動を毎日耳にし目にせざるを得ない環境にある従業員Aさん(男性)は、この環境を非常に苦痛に感じており、思うように業務を行うことができない、と会社に苦情を申し立ててきましたが、このグループの社員の言動彼らは業績も良く、顧客からの評判も上々で会社はこのグループの従業員の言動を問題視しません。さて、この雇用主の行為は違法なセクシャルハラスメントと言えるでしょうか。


回答に迷われていませんか?迷うようであれば、職場でそのような場面に出くわした時に、管理職として適切な行動を取ることができないのではないでしょうか。セクシャルハラスメントを感知できなまま、うちの会社は大丈夫、と言うのは危険です。


この10月9日にはニューヨーク州で人権法の改定を行って法定化されたセクシャルハラスメント関連法が施行されます。同法の施行により、ニューヨーク州のほぼ全ての雇用主に、様々な義務が発生することになります。州のガイドラインを満たしたポリシーの導入、管理職者の責任の明確化、社内の苦情申し立てプロセスの確立、従業員全員を対象にしたトレーニングの実施、非従業員に対する責任も同法に含まれたことから、トレーニングは派遣社員はコントラクター、インターン、1日しか就労しない場合など、幅広い就労者が対象になりそうです。また、社員の望む言語でのトレーニングの実施が必要になりそうです。州から最終のガイドラインがまだ発表されていないため、不確かな部分がまだ多々あるのですが、同法に関連して雇用主が行わなければならないことは山ほどあることに間違いはありません。

MeTooムーブメント時代です。セクシャルハラスメントの被害者が勇気をもって被害を届けることができる社会ができあがりつつあると考えてください。従業員は雇用主が従業員を守ってくれることを期待していることを十分に感じてください。この時代において十分なセクシャルハラスメントに関する知識と敏感度、そしてハラスメントの適切な取り扱いができるスキルは、管理職にとって必要不可欠な素質と言っても過言ではありません。


ニューヨーク州のこのセクシャルハラスメントに関する包括的なアクションは全米初のものですが、このムーブメントがこれから全米に広がっていくことは確かだと思います。また法律で取り締まられなければ、うちは関係ない、では済まされない問題でもあります。ハラスメントが横行する、ハラスメントを容認する企業という噂が立つだけで(SNSで情報が一瞬で世界を走る時代です)、ブランドに傷がつくことは間違いがなく、優秀な社員が採用できない、取引を停止される、社員の離職率が上がる、職場の士気が低下し生産性が下がる、そんなネガティブスパイラルに巻き込まれることも大いに考えられるからです。


雇用に関連して違法行為とみなされる場合、discriminationケースであることがほとんどです。法によって保護されているクラスの個人が雇用における差別を受けてはいけない、という考えがベースで、ハラスメント=差別(discrimination)と考えてください。
では法によって保護されているクラス、とは?クラス、という英語をなんと和訳してよいのかいつも困り、結局は原語をそのまま使ってしまうのですが、分類、群、といった日本語が一番近いと思います。どんな法律によってどんなクラスが保護をされているのか、どういう場面でハラスメントが発生するのか、ここを理解しなければ職場でハラスメントが起きていることを感知することはできません。


個人を保護する法律ですから、人権に関わる法律がハラスメントを取り締まる、と覚えていただければ結構です。連邦法ですと公民権法、州法、ローカル法ですと人権法と呼ばれる法律が深く関わっており、連邦法でカバーされないクラスが州法、ローカル法と地自体が小さくなればなるほど、基準が厳しくなります。ニューヨークの例を挙げると、連邦法で守られているクラスは、人種、肌の色、出身国、宗教、性別、妊娠、年齢(40歳以上)、障害、遺伝子情報、軍役ステータスですが、州法になると、自己認識の性、性的志向、教義、配偶者の有無、子供の有無、ドメスティックバイオレンスの被害者、犯罪・逮捕歴、が加わり、ニューヨーク市の人権法には、これに更に内縁関係市民権の有無、サラリーヒストリー、無職状態、といったクラスが加わります。これらのクラスに属する個人がこれらのクラスをベースに雇用上の差別を受けること、これが職場におけるハラスメントの基本です。

それぞれの法律が、取り締まりの対象になる雇用主のサイズの規定があり、連邦法は従業員15名が一般的、それが州法、ローカル法になると4名というのが一般的です。従業員4名までサイズがかなりの数の雇用主がカバーされることは想像ができると思いますが、セクシャルハラスメントだけは、MeToo時代に後押しをされて従業数の規定が排除されました。ですから、駐在員1名、ローカル社員1名の雇用主も、セクシャルハラスメントだけは、法の管轄下にあるのです。


セクシャルハラスメントは、性的な性質言動によるハラスメントのみを指すのではなく、性別(=生物学的な男女の性別に現在は自己認識の性、性転換者の性、といった社会学的な性別も含まれます。)に関連して発生するハラスメント全てのことを指しています。
女性ばかりの職場にたった一人の男性従業員が就労している環境で、女性従業員がその男性従業員をからかって“女性扱い”し冗談の標的にする、これもセクシャルハラスメントである可能性が潜んでいるのです。

本当に、うちの会社は大丈夫、ですか?

今、雇用主が真剣に取り組まなければならないことは、会社のカルチャーを見直すこと、ハラスメントゼロ宣言を行うこと、セクシャルハラスメントはもちろんのこと、ハラスメントを容認しない姿勢を示すポリシーを導入すること、従業員全員にしっかりとした教育を行うこと、特にスパーバイザー以上の管理職者の責任の認識と意識を高める教育を行うこと、従業員が安心してハラスメントの苦情を申し立てらるオープンドアなカルチャーと制度を確立すること、そして従業員とのコミュニケーションを避けないこと、です。


手前みそで恐縮ですが、当社にはカンパニーミッションやカンパニービジョンの代わりに“Actus不変のモットー10か条”というものがあり、創設以来、このモットーを私どもの事業運営の判断基準としてきました。その中に、「正しいことをしよう。正しくないことを指摘する勇気を持とう。」があり、私は、10か条の中でこのモットーを一番大切にしています。そして、そういう雇用主の下で仕事ができることを(日々の小さな不満はさておき)幸せにも誇りにも感じています。セクシャルハラスメント問題においては、まさに、このモットーが何よりも大切な姿勢なのではないでしょうか。そして、MeTooムーブメントを始めとするセクシャルハラスメントを容認しないという今日の社会の意識の広がりは、この正しいこと、が原点なのではないでしょうか。

大矢まどか
人事アウトソーシング担当
Actus Consulting Group, Inc.