ニュースレター

2013-07-01
Newsletter 2013年7月号 連載 『第1回 Role Matching』
私が初めて転職したのは、40歳を迎える直前であった。お役所的な風土で有名な日本の通信会社からアメリカ西海岸の外資系ソフトウェア会社に転じたのだが、会社のカルチャーの激変と部長職から役員に役職が上がったことに自分が適応できるかどうか実は不安を抱えながらの転職であった。そんな初めての転職で緊張もあったのだろうが、入社して三か月ほどたった頃、毎日とても疲労感を感じた。

そしてなんとなく自分は新しい環境に馴染めていないようにも感じた。新しい役割(ロール)に自分がマッチしていないのだ。かといって外資で弱音を吐いたら終わりだ、そう思い込んでいた私は直感的に、「誰かにこの変化を一緒に見ていてもらい、気付いたことを私にフィードバックしてもらおう。何がこの疲労感とアンマッチ感の原因なのか突き止めよう。そうじゃないとこの転職は失敗する。」と思った。そしていろいろと検討した挙句に、この状況を解決するパートナーにコ
ーチという社外の第三者を選んだのだった。

検討はしてはみたものの、正直なところ私はコーチが自分に何をしてくれる存在なのか当時ちゃんとは理解していなかった。単にその数年前に自分のマネージメントスタイルに迷いを覚えて本屋で手当たり次第に買い漁った実用書の中にコーチングの手法をマネージメントに活用するという本があり、漠然と、ビジネスにおける「コーチング」という言葉が頭の中に残っていた。話をしながら何らかの指導をしてくれるのだと漠然と思っていた。

私のコーチはまず私の新しい職場の上司、同僚、部下に対して徹底的にヒヤリングをして私が新しい職場環境でどのように映っているのかを率直にあぶりだした。そして、それを私に一切加工することなく直接ぶつけてきた。その結果出てきたことが今でも忘れない以下のコメントである。

「判断と行動開始が遅い。判断するために必要なすべてのピースが埋まってからしか、判断や行動をせず、それまで部下に対する具体的な指示もない。」「昔の日本の会社のスピードが染みついているのではないか?外資で働くスピード感ではない。」「指示・命令があいまい。いつまでに何をどのような形でアウトプットすればいいのか、本人にイメージがしっかりないままに仕事の指示をしているのではないか」

実はこれでも前職では「仕事が早い」ことを評価され、自分でもそれなりに「やれて」いると思い込んでいた私は非常にショックを覚えた。それ以上にそう周囲が感じていることを自分が察知できていない、単に自分がマッチしていないとしか感じ取れていないことが衝撃的だった。私はコーチに「どうしたらよいのか?」と答えを求めたが、彼は逆に「あなたのなかではどういうプロセスが起きているのか?」「どうしたら周囲のこの印象を変えることができると思うか?」と質問してくるだけであった。自分の中のプロセス?何が聞きたいのだ?と訝しがったが、とにかく考えろという。ヒントもなく苦しかった。

ずっと考え続けて一週間ほどした時にふと何が起きているのかを言語化することがようやくできた。「私は新しい会社で見聞きしているすべてのことを『これは前の会社でいうとこれだな』と一々翻訳してから自分の中に取り込んでいた」のだ。そして一旦以前のフォーマットに翻訳して考えたことをまた今の会社に合せていた(つもりで実は合っていなかった)というのが起きていたことだった。周囲から私が「昔の会社を引きずっている」と捉えられたのも無理からぬことであった。

その後、私はコーチとのセッションを通じて自分のロールマッチングを進めた。パソコンで言うと私は新しいアプリケーションソフトを動かすにはOS(オペレーティングシステム)が古いままだったのだ。コーチとのセッションはパーソナルOS をヴァージョンアップする作業だったと思う。半年後、同様のインタビューで私は皆から「一番、スピーディーに判断し、動くトップの一人」という評価を獲得した。その頃にはいつの間にか疲労感もなくなっていた。きっと起きる出来事をそのまま受け入れてプロセスし、スピードを落とさずにアウトプットし始めたからだと思う。

その後、この経験でコーチングに興味を持った私はコーチングを学び、資格を取り、仕事の中で使いながら結果を出していった。今、プロのエグゼクティブコーチとしての自分がいるのも、このコーチングによるロールマッチング経験が大きく影響している。転職をする人が一人でも多くロールマッチングに成功して欲しいと切に願いつつコーチングを行う毎日だ。

COACH A Co., Ltd. (USA)
CEO 吉川 剛史

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