ニュースレター

2015-02-18
Newsletter 2015年3月号学習するスピード
転勤、転職といった異動にともなって新しい環境でパフォーマンスを出すことを求められる場合にあなたはどのような学習スタイルを持っているでしょうか?まず本を読んで事前知識を徹底的に収集しますか? 識者と呼ばれる人に教えを請いますか? あるいは出たとこ勝負で新たに経験したことからポイントを自分で発見していくでしょうか? ここ数年、「グローバル人材」「グローバルリーダー」とはどういう人で、どのように開発されると効果的なのか?という議論が非常に活発になっています。

事業環境が大きく変わり、十年一日のごとき静的な事業環境でビジネスを進めることは非常に少なくなってきました。代わりに「前例なく」「早いスピードで」「異文化で」「広いマーケットニーズ」に答え続けなければあっというまに競争力を失ってしまう。そんな厳しい事業環境に私たちは身を置いています。そんな環境でのリーダーに求められる資質の一つが「早く学習する能力(Learning Agility)」だと言われています。では、どんなリーダーがLearning Agilityが高いと言えるのでしょうか? 

いくつかのエグゼクティブサーチや人事コンサルティング会社のレポートからまとめてみると以下のことが言えるようです。まず第一に、学ぶのが遅い人材によくあるケースは「自分の過去の経験にあてはめて現状を理解しようと試み続ける」というものです。学ぶのが早い人は自分の過去の経験が役に立たないと思ったら即座にそれを捨て去る力を持っています。そして、「何をインプットしなおせばいいのか?」「誰に教えを請うのが最も効率的なのか?」という自分への切り替えの「問い」を起動します。学びの遅い人はなんとか自分の得意領域、過去の経験に目の前の新しい環境を当てはめて理解しようとします。その結果、見るべきものが見えず、あるがままに受け取るべきものが受け取れないという状況に陥り、アクションと判断のポイントがうしろにずれていくのです。

第二に、「仮説思考でまず動いてみる」というものです。新しい職場、新しい会社に移ってから「まあ、とりあえず半年から一年はじっくり様子を見て、それから始動します」という方がいます。そのアプローチももちろん悪くはないと思います。でも、その方、一年後にはこうおっしゃっていました。「一年たったらまた予想外に新しい環境になってしまった。まさか、うちの会社がこんな大きな買収をするなんて思ってもみなかったんだよ」もう「様子見」していたら赴任期間はあっという間に終わってしまいますし、転職だったら「ハネムーン」と呼ばれる見極め期間はとっくに終わってパフォーマンスの出ない人というレッテルが貼られてしまう、そんなスピード感なのです。それよりもまず「仮説」に基づいてクイックアクションを起こし、結果を検証し、間違いがあれば修正する。つまりPDCAサイクルを今までよりも高速に回す必要があるということです。

「早くたくさん小さな間違いを経験し、早く確実に修正していく」とも言えるでしょうか。かくいう私も最初の転職で失敗しかけたことがありました。毎日、目の前に現れる新しい環境、文化、ルール、キーパーソン達を昔の会社の経験で解釈しようとし、すべての情報が手に入るまでアクションを起こさずに「様子見」をしていたのです。救ってくれたのは当時の私のコーチでした。彼が私の周囲の人たちにインタビューその他の調査をして、私が「学びの遅い人」のやることを知らずしらずやっていたことを私にフィードバックしてくれたのです。そのフィードバックを受けなければ、私はそのまま成果を出せずに時間だけ経過させた人になっていたことでしょう。

そうです。第三の学びを加速させる要素は「的確なフィードバッカーを見つけ」、第二のPDCAサイクルを更に加速させることです。そういう意味では第一から第三の要素の背景には「社外に広がる違う視点を持った多種多様な人脈があるか、なければそういう人材を見つけてこれるか」という第四の要素もありそうです。

従来、私たちは何らかの専門性、テクニカルスキルを身に付けてそれで勝負するように社会に出てからトレーニングされてきました。しかし、これからリーダーポジションにつく、とりわけグローバルなフィールドでリーダーとして動くためにはベーススキルとしてLearning Agilityが求められるということなのでしょう。

吉川 剛史
執行役員(米国担当)
コーチ・エィ(USA) CEO
takefumi.yoshikawa@coacha.com