2014-03-01
フィードバックという言葉にはいろいろな意味がある。例えば、学生時代に習ったように、生物は身体の状態を一定に保つ性質(恒常性:ホメオスタシス)を持つが故に、あるべき状態から外れているという信号(ネガティブフィードバック)をきっかけにもとに戻そうとする働きが始まる。体温を保つための発汗、血糖値を保つためのインシュリン分泌、異物を排除するための免疫系の働き等々である。また、射撃や砲撃手にはかならず横で双眼鏡を持ったスポッターがいて、狙った的に対してどのくらい外れたかを撃ち手に伝え、撃ち手はその情報をもとに照準を修正する。いずれも「本来あるべき状態に対してどのくらい外れているかという事実を伝え、あるべき理想的な状態に戻す」ことをフィードバックは目的としている。
昨今、フィードバックの重要性は人間関係やコミュニケーションの領域でも増しており、リーダーシップ開発や組織風土改革の眼目は「組織内に健全なフィードバックループが機能しているか?」「機能していなかったらどのようにそれを構築し、機能させる環境を創るのか?」という点に焦点が絞られている。また、以前の本稿(「ロールマッチング」の回)でとりあげたように転職・転勤などで新しい環境に早く馴染み、高いパフォーマンスを発揮できる人とパフォーマンスが出るのに時間がかかる、あるいは馴染めずに退職してしまう人の差もその人が自分についてフィードバックをうまく自分から取りにいけるか?良質なフィードバックができる人を周囲においているか?が大きく作用すると言われている。
新しい職場で周囲から期待されている行動、リーダーシップ、コミュニケーションスタイルについて「あるべき状態」に対して自分が今どういう位置にいるのか、どのくらいズレがあると見えているのかを周囲からフィードバックを得て自分で修正する。フィードバックへの柔軟な対応とその速さ(Agility)が勝負を分ける。これができずに前職の行動様式、プロトコール、カルチャーを引きずって「これが自分の慣れ親しんだスタイル」という姿勢を続けていると実は新たな職場での新たな役割(ロール)に対するマッチングはどんどん遅くなりパフォーマンスも出にくくなる。なお、フィードバックが機能するにはいくつかの条件がある。フィードバックを受ける側も、する側も意識しておくだけで機能する、しないに大きな差が出るので参考にしていただければと思う。
まず第一に、冒頭の例にもあったように「フィードバックは共通したあるべき姿との対比において行われる」ことが大前提である。射撃の的の例にみられるように的の真ん中との距離(本来のあるべき姿とのギャップ)に対してフィードバックは行われるものなので、お互いにこれが「目標」と言える共通のゴールイメージがなければ正しいフィードバックにならない。本人とフィードバッカーが違う的(目標)を見ている場合は、機能しない。例えば、スペシャリストとして採用された人にマネージャーとしてできていない部分をフィードバックしても言われた方にはピンとこないし、逆もしかりでジェネラルマネージャーに専門知識の少なさをフィードバックしても機能しない。
第二に「フィードバッカーは評価、判断を交えずに的(目標)とのズレに関する客観的な事実を本人に返してやる」ということが必要である。 「君はルーズな性格だ。段取りが悪い」と言った評価、批評ではなく、「資料の提出期限を二日過ぎている」といった「事実」を伝える。
三番目に「後からではなく、可能な限り気付いた人がその場でフィードバックする」ことも大事である。 一か月たった際に「実はあの時にも言おうと思っていた。」というフィードバックをもらっても言われた側はピンとこないし、素直に内容も受け取りにくい。その場で事実を伝えることがストレートなフィードバックにつながる。こうしたフィードバックに関する留意点はクロスカルチュラルなマネージメント環境においても有効である。
日本人マネージャーはどちらかというと人間関係への影響を気にしすぎるが故にストレートなフィードバックをチームメンバーに返すことに慣れていないケースが見受けられる。フィードバックを上手にかつ有効に活用することはチームの活性を上げ、お互いに期待とそれに反する「がっかり」をも正直に伝え合うのでぬるま湯体質を排除することができる。また、ネガティブフィードバックだけでなく期待通り、あるいは期待を超えるパフォーマンスが見られた時の「それだよ!(的のど真ん中に当たっているよ!)、その調子!」というポジティブフィードバックは行動強化につながり、これもモチベーションコントロールに有効とされる。「フィードバックを制するものはコミュニケーション、マネージメントを制する」といっても過言ではない。日頃から周囲のために、そして自分のために積極的なフィードバックの交換を心がけたいものである。
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CEO 吉川 剛史
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