ニュースレター

2019-02-27
Newsletter February 2019: 3月1日はNATIONAL EMPLOYEE APPRECIATION DAY です!
今週の金曜日は3月1日、3月の第一金曜日です。

この日はアメリカ、カナダ、イギリスで認識されているNational Employee Appreciation Dayという非公式な職場における“祝日”です。会社と従業員の絆を深めることを目的として1995年にボブ・ネルソン博士という組織行動論及び従業員エンゲージメントの権威者の考案でネルソン博士の出版社であるワークマン出版社が従業員の功績を称えることの大切さを改めて認識する機会として始めた祝日で、管理職者や経営者、人事関係者が従業員に対して1年間の功労と努力に感謝の念を示す日としてこの祝日を利用しています。

Forbs紙といったビジネス誌でも、この祝日を通して従業員の功労を認知し報いることの効果及び“アプリシエイション” – 表面的な感謝の言葉ではなく、従業員の功績を認め称賛する姿勢を通してより堅固な企業文化を作り上げるためのヒントが取り上げられ、マネージメントのこういった姿勢が従業員の離職を防ぎ従業員個々人の、ひいては組織全体の生産性の向上につながることが広く着目されています。

そもそも、従業員の功労を認知しアプリシエイトすることは何故重要なことで、実際にどのような効果があるものなのでしょうか。職場におけるアプリシエイトの効果について、ウォートンビジネススクールのリサーチャーが行った検証に関し、ハーバードメディカルスクールが以下のレポートを発表しています。

ウォートンのファンドレイジング(募金活動)を担当する職員を、ランダムに2つのグループに分け、電話によるファンドレイジング週を目前にひとつのグループの職員を集めディレクターが直々に職員のファンドレイジング活動の功労に心から感謝する、とペップトーク(激励の言葉をかけること)を行いました。翌週のファンドレイジング活動では、ディレクターの感謝のペップトークを受けたグループは受けなかったグループを50%も上回る募金活動の電話をかけた、という目覚ましい成果が出たそうです。

アプリシエイトが生産性にこれだけの影響を与えた理由は、人間の脳の機能にあると言えるのだそうです。アプリシエイションは脳の視床下部に影響を及ぼすことが分かっています。視床下部は食欲や睡眠そしてドーパミンの分泌をコントロールする機能を持っています。ご存知の通り、ドーパミンは外部から受けた刺激を神経細胞に伝える神経伝達物質で、快楽や意欲、多幸感といった感情、記憶や運動、睡眠など人間の体内の重要な機能に深く関わっていることから、アプリシエイト➡幸せ、意欲、よく眠れる➡仕事に対する幸福感、業務遂行意欲の向上、睡眠、食が十分なことからの集中力・自信・ストレスの低下・ポジティブ思考、➡生産性向上、という好循環が生まれるわけです。

アプリシエイトの効果、非常に明確ですね。そうか、じゃ、早速やってみようじゃないか、という気持ちになりませんでしたか?科学的に実証されると説得力があるものです。にも関わらず、アプリシエイションデーなる祝日を設けて会社が従業員をアプリシエイトする重要性をうたう必要がある、つまり、就労者が職場で十分にアプリシエイトされていないという実態が存在し続ける理由はどこにあるのでしょうか。そして、アプリシエイトが下手なのは、褒め下手な日本人に限ったことではないようです。

2017年のハーバードビジネスレビューに掲載された“Why Do So Many Managers Avoid Giving Praise?”というタイトルの記事でこんな調査結果が発表されています。7631名からの回答があった調査で44%の回答者がネガティブなフィードバックは困難でストレスを伴う業務であると回答しているのですが、別の調査で7808名からの自己アセスメントアンケートの結果では、ネガティブなフィードバックを避けてしまうとの回答は21%にとどまっています。これは、困難な業務ではあるが、ネガティブなフィードバックを従業員に対して行うのは管理職者としての職務だとの意識を証明するものでしょう。ならば、ポジティブなフィードバックは簡単な職務なはずです。

ところが、この同じアンケートによってポジティブなフィードバックを避けてしまうとの回答は、ネガティブを大きく上回って37%にも上るという驚きの結果となりました。どうやら一般に管理職者はポジティブフィードバックをオプショナル、と理解しているようだとこの記事は分析し、そしてそれは間違いだ、と続けます。ポジティブなフィードバックはネガティブなフィードバックよりも断然人間関係を築く材料になるからだ、と。実際に、考課を受ける従業員は、上司からのポジティブなフィードバックから多大の影響を受けること、それに対してネガティブなフィードバックからはそう大した重要な影響を受けることはないとの調査結果も出ているそうです。

管理職者は反対に、従業員のできていないことを指摘することこそが、生産性を向上させる人事管理方法だと認識し、ポジティブな激励のパワーと必要性を軽視していることから、効果的なリーダーシップを発揮できないのは当然だと。この記事の筆者は、その原因を、過去の経験によるもの、また部下をほめる行為は強い管理職者としてのイメージを損なうと考えていること、または褒めてあげたいとは思っているものの、毎日の激務に追われついつい批判する、注意するだけになってしまうのでは、と推察しています。

職場の管理職者として、適切に注意する、批判すること同様にこの褒める、アプリシエイトするにも適切なタイミングとスキルが必要です。方法や言葉の選択を誤れば、職場における差別やハラスメント行為になりかねず、良かれと思った言動も知らず知らずのうちに会社にも自らに対しても大きなリスクを生み出すことになってしまうかもしれません。これは、ネガティブなフィードバックにも言えることです。

だからと言って、ネガティブな事態を恐れて従業員と生産的な人間関係を築かなければ、生産的な企業文化も生まれず、ネガティブな評価もポジティブな評価もできない、という悩みを抱えてしまうことになるのではないでしょうか。
管理職者として、アメリカの職場のバックグラウンド、各種雇用法、就業規則をしっかりと理解しつつ、如何に従業員と生産的な人間関係を築くことができるのか、知識とスキルのバランスこそがこの悩みを解消する鍵だと思います。

従業員をアプリシエイトする方法、Employee recognitionの方法は多数あり、何も大金を投資しなければならないプログラムを導入する方法ばかりではありません。
何らかのインセンティブプログラムを導入するのも一つの方法ですが、日々従業員が何か成功したり貢献したりした行為に気づきそのタイミングで褒める、アプリシエイトする機会を逃さないことです。従業員は尊敬する人物から心のこもった称賛を受けることを嬉しく思うものですし、どんな行為が認識されアプリシエイトされることなのかが全てのレベルの従業員が理解できるツールとなり組織全体のレベルアップにもつながることになります。人は、ある状況の下での他人の言動を正しい言動と認識するとその類の言動を行うようになるのだそうです。

2014年に米系最大手のコンサルティング会社が189か国、20万人の従業員を対象に行った仕事に対する意識調査で、偉大な業績を成し遂げることのできる要因は何ですか?という質問への最大数の回答は会社が自分の業務遂行を認識してくれること(37%)で、意外にも報酬(7%)、昇進(4%)を大きく超える結果となったそうです。Employee recognitionが生産性向上と深いつながりがあることを示していると言えるでしょう。お金で従業員は引き止められない、という結果でもあります。
ある記事で以下の、“従業員個人のパフォーマンスを認識する方程式”、を目にしました。

1.名前を呼んで感謝する。
2.アプリシエイトされた具体的な言動や成果を明確に伝える。
3.従業員のその言動によって自分がどんな風に感じたのか(従業員のその言動に対して抱いたた誇りや敬意などのポジティブな感情)
4.その言動によってチーム全体、会社全体にどのような価値を付加できたのかを明確に表現する。
5.最後に再度その従業員の名前を呼んで、貢献に感謝する。

Employee recognition/appreciationはマネージメントレベルも含め会社全体で行われるべきだ、ポジティブな言動はポジティブな言動を生む、失敗を批判し非難する企業文化ではなく、成功を享受する企業文化こそが成功を生む鍵だ、とこの筆者は書いています。

冒頭でご紹介しましたEmployee recognitionの権威であるネルソン博士も“Relationships are built on interactions, and the more you take any relationship with anyone in your life, your employee, your boss, your spouse, your kids, look at your last five interactions; how many were positive and how many were negative? If they were all negative, you had a negative relationship – you got some work to do and that work is as simple as catching them something right that’s important to your mutual success.” と語っています。

ちょうど良いタイミングです。今週金曜日のNational Employee Appreciation Dayを利用して、従業員全員をアプリシエイトしてみてはいかがでしょうか。