ニュースレター

2013-12-01
Newsletter 2013年12月号 雇用開始から3ヶ月間と“At-will”の相反性
よくお客様からから「3ヶ月の試用期間中の解雇は簡単でしょうか?」「試用期間の延長は可能でしょうか?可能であればどの位まで伸ばすことが出来ますか?」「試用期間を延長するのであれば有給休暇や健康保険の付与開始を延期しても良いのでしょうかか?」「試用期間中に人事査定をすべきでしょうか?」など、試用期間に絡む多くの質問がよせられる。以上を理由に今回は試用期間への疑問や背景について書くことにした。

困惑を招く大きな要素の一つに、プロベーション・オリエンテーション・イントロダクトリーなどの言葉が同義語として使われている事が挙げられる。歴史的に1970年代後半までは、雇用開始から3ヶ月間を「プロベーション・ピリオド」と呼んでいた。この3ヶ月間に雇用主は従業員の職務や態度を精査し、その従業員を引き続き雇用下におくか解雇するかを決定していた。そしてその間に解雇されなかった従業員は「パーマネント(永久の・不変の・永続する)従業員」として正式雇用に至った。この時代、パーマネント従業員は解雇に当たって幾つかの権利を有するとされており、例えば正当な理由やcause(損害の理由)がなければ解雇される言われはなかった。この原則は裁判所でも適用されている。

しかし、米国雇用主はこの原則と同時にEmployment-at-will (任意雇用)も適用している。任意雇用制度は米国の旧宗主国であるイギリスより産業革命時代に持ち込まれたものである。イギリスにおける初期の任意雇用制度下の雇用主(主人)は、労働者(使用人)の能力が要求に満たない場合以外では解雇ができなかった。また、対する従業員側も雇用主に対して十分な通知を行わなければ辞職できなかった。しかし当時の米国ではイギリスの任意雇用制度を拡大解釈し、雇用主・従業員の双方が雇用関係の中止を行えるとした。そして1900年代前半には「任意雇用制度下では、雇用主・従業員のどちらもが理由の如何に関わらず雇用関係の中止を行う事に法的な問題は無い」とした。

1970年代後半、3ヶ月の試用期間を過ぎて解雇された従業員達は、雇用主が“Just Cause(明確な損害)”を理由にした解雇でない限り「パーマネント」として雇用された自分達が解雇されるのは不当解雇であるとして訴訟を起こすようになった。そして1980年代、任意雇用・プロベーション・パーマネント雇用の関係は「“任意雇用”が前提であるのに、何故3ヶ月の“プロベーション(試用期間)”を終えた従業員が“パーマネント(永続)”従業員になるのか?」という、大きなジレンマを抱える事になる。

1980年代半ばを皮切りに裁判所は問題の沈静化に動き出した。そして裁判所の任意雇用に対する見解「雇用主・従業員双方共に、何時いかなる時でも、理由の如何に関わらず、また通知の有無に関わらず、雇用の中止を行う事ができる」は、その考え方が全米に広がった。しかし雇用主は従業員の解雇には引き続き注意せねばならなかった。例えば、口頭・書面で何らかの契約が為されている場合は、従業員をat-willを以って解雇する事はできず、いわゆる「誠実で公平な取引契約“covenant of good faith and fair dealing”」を実行する必要があった。

しかし言葉の方はこのような法的な変更と歩調を合わせる事はなかった。「イントロダクトリー」「トライアル」「オリエンテーション」といった言葉は「プロベーション」と比べれば安全ではあるが、それでも多くの法律専門家達は、これら4つの言葉は、雇用開始から3ヵ月後に従業員が「パーマネント」になるという誤解を与える恐れがあり、雇用主は用いるべきではないと主張した。つまり今後も企業が任意雇用制度を保持した場合、任意雇用下では雇用開始から3ヶ月とその以後に何ら違いがあってはいけないと言う事になり、「雇用開始から3ヶ月以内に解雇を行わなければ、その後の解雇は難しいか?」という企業からの問いは、任意雇用が雇用開始日より適用されており、従って3ヶ月と言う期間はなんら意味をなさないと言う事を理解していない事になる。

では試用期間に意味がなく、期間を設定すべきではないかと言うとそうではなく、2つのメリットが挙げられる。先ず、雇用開始から3ヶ月間は雇用主・従業員双方にとって、お互いを試す事ができる期間である。従業員は自身が新しい環境に適応できるかどうかを見極める事ができるし、マネージャーは従業員が新しい職場や会社風土になじめるか?そして仕事ができるかどうかを確認する事ができる。更に新従業員と彼らの仕事内容とそのパフォーマンスについて毎月ミーティングを持つ事は非常に大切である。斯様なミーティングを行う事により、雇用主は従業員に対して、雇用主側が従業員の職務及び彼らのパフォーマンス目標に対して非常に興味を持っていることを示す事ができる。もし最初の3ヶ月間に従業員と定期的にミーティングを行っており、従業員のパフォーマンスに問題が無いとすれば、3ヶ月終了時には従業員が無事試用期間を終了した旨を伝える書類を渡すべきである。

次に「雇用開始から数週間のうちに従業員が問題を起こしたらどうすれば良いか?」との質問があり、試用期間を設けるメリットの2つ目はこのような問題を早期に解決する事にある。もしマネージャーが新規採用従業員の問題を見たり聞いたりした場合は、早急に対策手段を講じるべきであり、対象従業員に知らしめる目的から事実を記したドキュメントを用意した上で当事者とのミーティングに臨み、問題点を指摘し、それへの改善を求める事が措置となる。管理職の多くは経験があると思うが、問題を放置した場合、大抵は改善される事がなく、むしろ問題が更に悪化した上で表面化してくることが多い。これはマネージャーと従業員のリレーションシップ初期にはよくある話である。

以下は多く受ける質問とそれに対する回答である:

解雇する場合、雇用開始から3ヶ月以内のほうが3ヵ月後より簡単か?

もし任意雇用がポリシーにあるならば雇用から3ヶ月以内であろうが、3ヶ月後であろうが、3年経っていようが変わりはない。しかし実質的には、従業員の勤続期間が長くなれば長くなるほど、彼らは「既に長期間雇用された従業員」として、急に「パフォーマンスが悪くなったから」などと言った理由での解雇は難しくなる。

2ヶ月ほど前、新規に従業員を採用したが、パフォーマンスの見極めに3ヶ月以上が必要である。1~2ヶ月間試用期間を延長する事は可能か?

試用期間の延長は稀なケースとすべきであり、マネージャーは「何故延長するのか?」「延長する事により従業員の何を見たいのか?」「何故それを今まで見る事ができなかったのか?」といった事を自問すべきである。もし試用期間を延長するとしても最長で2ヶ月程度が望ましい。注意したいのは「問題がある従業員」は「従業員問題」の原因となりやすく、その従業員が他の従業員にも悪影響を及ぼしかねない事である。仮に雇用関係を終了する可能性が高ければ、早期行動をとることが望まれる。

もし試用期間を1~2ヶ月延長した場合、ベネフィットの付与の開始時期も同じように延期できるか?

もし短期間の延期であれば有給休暇、祝祭日、有給病欠などのベネフィットの付与を延期する事は可能である。しかし健康保険に関しては保険契約時のサマリープランディスクリプションを確認する必要があり、一般的には延期は不可能と思うべきである。つまり、もし加入している保険のポリシーが「加入は入社から3ヶ月後」としている場合、試用期間の延長に伴い加入が4,5ヵ月後になる事は「ポリシーに違反する」として、従業員の保険加入自体を受け付けない事態に至る可能性が高い。更に、幾つかの州では、取得し未使用の有給休暇は従業員の所得であり、解雇時には換金対象になると定めている。これについても何時から有給取得が始まるかなど、自社の有給休暇規定を確認すべきである。

任意雇用をポリシーとしているが、これについて従業員によく理解させるには?

ハンドブック内外には任意雇用について触れるべき箇所が幾つかあり、触れる際には一言一句同じ内容に統一するべきである。以下はそれら項目や書類の例:

1. The employment application
2. The offer of employment letter
3. The policy inside your employee handbook
4. On the employee handbook receipt page